2011 Fiscal Year Research-status Report
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23540291
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
森川 雅博 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (90192781)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 凝縮体 / 同期 / 暗黒物質 / インフレーション / 密度揺らぎ / 量子測定 / 天体磁場 / 脈動変光星 |
Research Abstract |
宇宙物理学の諸基本問題を「凝縮」により統一的に議論する研究を始めた。電力事情などもあり、高性能計算機を導入しての数値計算は来年度にまわした。その代わり、宇宙のいろいろな構造に関わる「凝縮系」の範疇を広げていくことに専念した。2点に絞り概説する。1.「凝縮」には、多数自由度が共同する「同期」という視点も本質的である。暗黒物質やインフレーション、ブラックホールなど、宇宙物理になじみの問題だけでなく、地磁気の反転現象や準周期な太陽の活動なども、ダイナモ要素の同期を通して、広義の「凝縮」現象ととられられることを確認し、「大極的結合スピンモデル」を提案した。マクロスピンの同期により、観測と整合する長時間相関や反転履歴を導くことができた。今まで高性能大型スーパーコンピュータでMHDを解く手法でも得られなかったいくつかの観測事実をパソコンで実行できるモデルから導出できることを示せたのは大きな意義がある。このモデルは、惑星磁場や星の磁場の起源とも密接に関連し、当初の目標である「複数の問題に関わる本質となる物理を探り出すこと」に成功している。2.初期宇宙インフレーション時期に場が凝縮して空間的パターンを作る密度揺らぎの発生現象において、量子場の凝縮がやはり本質的であることを確認した。そして、根本の問題は実験室の量子測定の物理と同根であることを見出した。これらの解決のために、EPR測定の物理的測定器を用いた記述を試み、これと同形に、初期宇宙密度揺らぎの自発的生成を論じた。この過程で、ベル不等式が破れ、量子力学の結果を忠実に再現することも確認した。一方揺らぎの生成では、そのパワースペクトルのスケール不変性は普遍的性質であるが、その振幅は、インフレーション機構やや再加熱の相互作用に大きく依存することを見出した。宇宙論の教科書にある安易な導出に、量子論基礎に関わる本質的な要素を付加した意義は大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の実行計画通りではない。しかし、「凝縮」現象に関して、当初計画の初期宇宙だけでなく地球物理や太陽・星物理も含めて、議論できていることは大変ありがたい。高性能計算機を導入しての数値計算ができなかったことは残念である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画を推進しつつ、今年度「意外にも」得られた知見を更に広げながら、研究を発展させていきたい。1.初期宇宙のインフレーションの動力学を、凝縮系物理学の視点から論じ、宇宙項の微調整問題を解決に導きたい。特に、ヒッグス凝縮・カイラル凝縮の動力学を考えても、凝縮系の自律的な微調整がどれだけ可能かを明確にしたい。そのために散逸的時間発展の視点を更に進める。2.初期宇宙の揺らぎ生成に関して、今までに得られた知見に基づき、実験室系での問題と整合的に発展させたい。実験室における量子測定論においては、スピン測定における凝縮系測定器の平均場の運動に着目したい。特に、有限自由度であっても十分に安定な信号を与える平均場をうまく取り出したい。3.凝縮系の不安定性と初期ブラックホール形成を、数値計算を交えて解明していく。また、ブラックホール形成の臨界現象のような、解析的に進みうる部分に関しても積極的に注目していきたい。さらに、巨大ブラックホールの持つジェットなどの活動性が、比較的古い星の生成をどのように促進したのかを解明する。これによって得られるブラックホールの活動性とその周りの全星形成の相関に関してなんらかの普遍的な関係を導き、観測と比較していきたい。4.地磁気に代表される惑星・星の磁場の特徴的な長期変動を、ダイナモ要素の同期の視点からとらえた方法論を、「変光星」の準周期的・間欠的な動力学に発展させて解明していく。これにより「凝縮系宇宙物理学」の現実性とその根源的な重要性が増すと思われる。特に、電離ガスによるκ機構に基づくセファイド型脈動と、対流に基づくミラ型の脈動を、星の要素が持つ(それぞれ)単純アトラクター、ストレインジアトラクターの違いから、明確に区別して議論できるかどうか決着をつけたい。さらに、この変動要素を考えた統一的な視点により、脈動変光星の現象論的な現分類体系を書き直してみたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.(今年度に計画されながら実現できなかった)高性能計算機の購入。数値計算をどんどん進めたい。効率的な数値解析のために専用ソフトウェアも導入する。2.得られた結果を国際会議などで大いに議論し、発展させるために、旅費を使う。3.今年度(意外にも)得られた、地磁気、太陽の活動性、変光星、などの「同期・凝縮」の視点からのアプローチを有効に推進するために、専門家を招き有用な知識を吸収したい。そのための謝金を利用する。
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