2012 Fiscal Year Research-status Report
数値シミュレーションによる高温高密度QCDの相構造の研究
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23540295
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
江尻 信司 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (10401176)
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Keywords | 素粒子論 / 計算物理 |
Research Abstract |
本課題では、高温高密度での量子色力学(QCD)の相構造を計算機シミュレーションにより研究する。密度を調節する化学ポテンシャルがゼロでない場合、直接モンテカルロ・シミュレーションができないため、QCDの高密度領域での研究は困難である。そこで、温度と化学ポテンシャルだけではなく、クォークの質量も変数としてパラメータ空間を広げ、相構造を考える。質量依存性を調べ、スピン模型などと比較することにより、相転移のユニバーサルな性質について議論することができ、低密度領域の情報から高密度で計算が難しい領域の相構造を予想することも可能になる。 我々は、より高密度でのQCDを研究するために、確率分布関数に着目して相転移の性質を調べる方法を提案した。その方法を用いて、まず、すべてのクォークが重い領域での相構造を調べ、一次相転移とクロスオーバーの領域を分ける臨界面を任意の密度で具体的に決定することに成功した。それにより我々の方法の有用性を示すことができた。さらに、現実のクォーク質量での相構造の解明を目指した、動的クォークが軽い場合の計算が現在進行していて、テスト計算では、現象論的な研究で予想されるような、低密度でのクロスオーバーが高密度で一次相転移に変わる兆候を確認することができた。 また、現実のQCD相転移は、軽いクォーク2種類と少し重いクォーク1種類の系であるが、それを少し変更して、その少し重いクォークがたくさんある系では、一次相転移が現れる臨界点を、有限密度の場合も含めて、容易に調べられることが分かった。その系は電弱相互作用の複合ヒッグス模型の一例と同等で、その相転移を調べることは電弱相転移でバリオン数の非対称性を作ることが可能かどうかの議論と関連している。我々のQCD相転移に関する研究は、意外な分野の研究に対しても有益な情報をもたらすことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
動的クォークが軽い場合の有限密度QCDの研究では、ボルツマンの重みの位相を省いてシミュレーションを行い、あとでその分を補正する方法が、高密度での研究に有効であることが分かってきた。研究を進め、高密度状態の計算方法を確立したい。 また、軽いクォーク2種類と重いクォークがたくさんある系の計算も面白くなってきた。質量のパラメータ空間の中で、現実世界の質量の点付近にあると予想されている三重臨界点近傍には、そのクォークの数によらずユニバーサルな性質があると言われている。上記の電弱相転移との関連だけでなく、QCD相転移の性質に関する面白い情報も引き出せるのではないかと考えている。 軽いクォーク2つの系の低密度、臨界点近傍のスケーリング則の研究について、今年度はあまり進展がなかったが、シミュレーションは続けていている。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題最終年度では、有限密度の研究を進め、高密度状態の計算方法を確立したい。 試験的な計算では、高密度で1次相転移に変わる兆候が得られている。それを明確にして我々の方法が有限密度での研究に有用であることを示したい。 動的クォーク2つのスケーリング則の研究に関しては、統計誤差をいかに減らすか考えなくてはいけない状況である。試行錯誤で最良の方法を見つけたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究はおおむね順調で、研究を進めるにつれて、計算したいことが増えている。研究が発散しないように気をつけながら、それら研究をまとめ、最終年度の終わりには、研究成果と言えるものを明確に示したい。
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