2012 Fiscal Year Research-status Report
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23540300
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山脇 幸一 名古屋大学, 素粒子宇宙起源研究機構, 特任教授 (90135301)
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Keywords | ウォーキング・テクニカラー / テクニディラトン / 複合ヒッグス / LHC / 格子ゲージ理論 / 計算機シミュレーション / 国際研究者交流(エディンバラ大学) / 国際情報交換(UCサンディエゴ) |
Research Abstract |
前年度に引き続き、複合ヒッグス模型としての近似的コンフォーマル対称性を持つウォーキング・テクニカラー理論のLHCでの検証のため、さらに理論的予言の詳細を研究した。とくにLHCで125GeVのボソンの兆候が報告されて以来、125GeVの質量のテクニディラトンの各崩壊モードの大きさを「はしご近似」とホログラフィーに基づき評価し、現在までのLHC実験データと整合することを示した。理論的に大きな進歩としては、ホログラフィーにおいて、テクニグルーオンの効果が大きい極限でテクニディラトンの質量が崩壊定数(弱スケール)より遥かに小さくなる理論的極限が存在することを発見した。これはテクニグルーオンのダイナミクスを無視している「はしご近似」では実現できない極限であり、テクニディラトンが自然に軽くなる論理的根拠を与えた点で画期的である。 一方、はしご近似やホログラフィーよりさらに信頼性の高い格子ゲージ理論の計算機シミュレーションによる研究を押し進め、まずフレーバー数12のQCDが(自発的に破れていない)コンフォーマル対称性をもつことを示し、さらにフレーバー数8のQCDは自発的に破れたコンフォーマル対称性をもってウォーキング・テクニカラーの候補となる理論であることを発見した(e-Print: arXiv:1302.6859) 。さらに計算機導入後2年間で先行研究を凌駕し、コンフォーマル対称性のあるこれらの理論で軽いフレーバー1重項の複合スカラー粒子のシグナルを世界で初めて観測した。これは125GeVのテクニディラトンとしての軽い複合ヒッグス粒子の候補の兆候を理論的に信頼できる計算機シミュレーションによって初めてとらえたことを意味する。今後さらにデータを増やし、質量以外の性質も研究することによって、2年後にアップグレードされて再開されるLHC実験での検証に備える展望が開かれた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(理由) LHCで発見されたヒッグス粒子がウォーキング・テクニカラーの予言するテクニディラトンと同定できることは本研究での最大の成果であり、世界的に大きな影響を与えている。2年後に再開されるLHC実験で標準模型を越える理論の探索に大きな可能性を開くものと確信する。これに関連して、KMIの専用計算機による格子ゲージ理論の計算機実験は、もっとも難しいと思われていたフレーバー1重項のスカラー粒子およびグルーボールの測定に様々な技術を駆使して非常にクリーンなシグナルを得ることに成功し、軽い複合ヒッグスの候補の計算機探索で世界のトップに立つことができた。まだいくつかの国際会議などでの発表(会議録原稿のe-print, arXiv:1302.4577 を含む)の段階であるが、データの更なる蓄積をまってまもなく論文発表の予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
LHCで発見された125GeVの粒子を、ウォーキングテクニカラーで予言したテクニディラトンと同定することが出来ることをはしご近似やホログラフィーを用いて示したのは大きな成果であったが、計算の近似の精度が今後の問題で、2年後のアップグレードしたLHC実験に向けて理論的改善を試みる。とりわけ、もっとも信頼性の高い計算機実験でおいて、KMIの専用計算機「ファイ」を用いての計算機実験は、導入後2年間でウォーキング・テクニカラーが予言する軽い複合ヒッグス粒子の候補としての軽い複合スカラー粒子の存在の兆候を世界で初めてとらえて、先行研究を出し抜いた。しかしながら、LHC実験でのヒッグス粒子発見以来、複合ヒッグス粒子の候補を計算機実験で探す研究は世界的に競争が激化しており、優位性を保つには統計量を飛躍的に増やし決定的なデータを得る必要がある。そのためには計算機の能力・計算時間の確保は絶対的に必要なものである。現在フル稼働してきたファイ以外に別途資金でH22年度、H24年度に購入した補助的な計算機もフル動員して、さらに九州大学の情報基盤研究開発センターの大型計算機を別途資金でレンタルし当座を凌いでいる。現状を大幅に改善するためさらに別途計算機資源を模索中。さらに海外にいるグループメンバーとの連絡や会議等での他グループとのコミュニケーションなど直接的な情報交換もさらに頻繁に行うこととする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
LHCがアップグレードのため2年間休止する間、理論的にやりうる限りの解析をとくに125GeVのテクニディラトンについて行う。同時にさらに大きな質量を持つと期待されるテクニパイオンやテクニローメソンなどを含む総合的な解析を行い実験の再開に備える。とくに内外の研究者との競争が激化するので会議等で頻繁に直接的な接触を図る必要がある。計算機資源の補填にも回したいが予算規模から考えて情報交換の旅費、会議費に重点をおくことになろう。
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