2011 Fiscal Year Research-status Report
クォーク模型バリオン間相互作用による少数バリオン系の研究
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23540302
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤原 義和 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (70199397)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 理論核物理 / クォーク模型 / バリオン間相互作用 / Faddeev 方程式 |
Research Abstract |
本研究の目的は、京都・新潟グループにより開発されたクォーク模型バリオン間相互作用 fss2 を用いて、少数バリオン系の Faddeev formalsm による解析を行い、散乱状態まで含めた三、四核子系と軽い s-殻ラムダハイパー核の包括的理解を得ることである。今年度は、まず運動量表示でのクーロン力の現実的解法を二体クラスター系に対して開発し、それを pd 弾性散乱に適用した。クーロン遮蔽距離が 8 - 9 fm 程度の値で散乱観測量の特徴的な振舞いを再現出来ることが明らかになった。次に、三体崩壊反応におけるクーロン力の取扱いに取り組み、まだ完全な解決には程遠いが、十分大きなクーロン遮蔽距離をとることによって、有る程度満足のいく結果が得られた。三体崩壊反応の偏極分解能もほぼ正しい結果が得られた。これまでの成果として、nd, pd 弾性散乱と三体崩壊反応の双方に対して、核子あたりの入射エネルギーが 65 MeV 以下のほとんどすべての現存する実験データを定性的に再現することが出来た。定量的には、依然 10% を超える実験データとの不一致がこの低エネルギー領域でもみられるが、これらは他の中間子交換ポテンシャルによる計算でも同程度、同傾向の不一致が存在しており、理論による計算結果と実験データの更に詳しい分析が必要である。当初の目的であった、核子間相互作用の off-shell 性の効果はこれらの差異には大きくはきいてこない。重陽子や核子・核子散乱の位相差を正確に再現する二つの全く異なった相互作用と計算方法によりほぼ同じ結果が得られたことは、核子間力の on-shell 部分が三体散乱の観測量を支配しているという意味で重要な結論である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は三体問題におけるクーロン力の取り扱いに非常な時間がかかり、それ以外のテーマへの取り組みが手薄になった。三体問題におけるクーロン力の問題は、完全な解決が永遠に不可能な難しい問題である。当初は近似的、実際的な方法の開発により、この困難を避けて通る予定であったが、弾性散乱と deuteron breakup のすべての計算を通じて、共通のクーロン遮蔽距離が取れない、等の予期出来なかった問題の発生により、より根本的な解決に向けての研究が必要になった。これは、その問題自信としては重要で意味のある課題ではあるが、時間的制約から将来の課題として先送りしたい。エネルギー依存性を除去したガウス型非局所ポテンシャルの作成は、実現の見通しがついた段階である。中間エネルギー領域での pd 弾性散乱の検討は、まだ進展していない。
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Strategy for Future Research Activity |
これ以上研究の遅延をもたらさないために、現在のクーロン力の近似的取り扱いにある程度満足して、(Σd)-(Λd) 散乱問題や、核子の四体束縛状態の計算を進める。四体計算については現在、式の整備が整った段階で、次に組み換え係数の基本サブルーチンの作成に移る。この作業のためと、現在進行中のクーロン力の入った取り扱い、更にはいまだ手付かずのより高いエネルギー領域での nd, pd 散乱の計算のために、次年度の早い時期に初年度見送ったハイパーフォーマンスコンピュータを導入する。基本サブルーチンを組み合わすことによって、四体 Yakubovsky 方程式の束縛状態を求める計算コードを作成する。まず、簡単な四体ボソン系で練習をつみ、スピン・アイソスピン因子と fss2 の nuclear t-matrix を組み込んで四核子系の基底状態の計算を行う。当面、クーロン力は無視する。(Σd)-(Λd) 散乱問題に対しては、パウリ禁止状態を含んだチャンネル結合散乱方程式 (AGS 方程式) の定式化が急務である。これまでの nd 散乱の計算コードを拡張して、クーロン力を無視した範囲でΣd散乱の全散乱断面積を光学定理の関係式を用いて計算する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
少数多体系の Faddeev 計算では、10万次元近い大次元の線形連立方程式や固有値問題を解かなければならないので、大きなランダムメモリーを持った特殊な計算機が必要である。初年度と次年度の予算を利用して 128 ギガバイトのランダムメモリーを持った性能のよいハイパーフォーマンスコンピュータを購入する。旅費としては、8月に福岡で開催される第20回少数多体会議 (fb20) と 9 月にハンガリーの Debrecen で開かれるクラスター国際会議 (Cluster2012) (招待講演) への出席を予定している。また、共同研究者の福川賢治氏や連携研究者の新潟大学名誉教授、鈴木宜之氏との研究打ち合わせ旅費が必要である。更に、現在準備中のクーロン力の取り扱いに関する論文やそれに続く論文の投稿料としての使用を考えている。
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