2012 Fiscal Year Research-status Report
くりこみ群による相対論的非平衡系のホログラフィーの解明と量子重力理論の構築の研究
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23540304
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
福間 将文 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10252529)
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Keywords | 量子重力理論 / 非平衡熱統計力学 / エントロピー / 粘弾性体 / 局所熱平衡 / ホログラフィー原理 / 曲がった時空上の場の量子論 / Unruh測定器 |
Research Abstract |
昨年度に構築した『一般座標不変な非平衡熱力学』を進展させることにより、量子重力理論における基本原理の探索と基本的力学変数の同定を試みた。その結果、次の2つの結果を得た。 ■ 高階微分の補正項を持つ相対論的流体に対し、高次流体を『高次粘弾性体』の長時間極限として定義することで、『因果律』と『局所熱平衡』の2つを同時に保つ定式化が可能であることを、特に共形対称性がある場合に示した。本研究により、 ・粘弾性体力学が流体力学の『より短時間スケールにおける完備化』になっていること、 ・『歪み』が『長時間スケールの有効理論を得る際に積分されるべき変数』とみなせること、 などが分かる。この理論形式は我々が昨年度に構成した『一般座標不変な非平衡熱力学』に基づいているが、そこでは重力場自身も熱力学変数として扱われていた。今後重力場自身もダイナミカルに扱い、短時間スケールでも局所熱平衡が保たれるように重力理論を拡張していくことによって、量子重力における基本的力学自由度の正体が明らかになっていくことを期待している。 ■ 曲がった時空における場の量子論では、ハミルトニアンが時間に陽に依存するため、これまで真空の定義に不定性があった。我々は各瞬間の基底状態として真空を定義する理論形式を展開し、曲がった時空上での様々な伝播関数を計算する手法を完成させた。とくに、この枠組みでは有限時間の量子力学的遷移も具体的に計算できるため、長時間スケールで実現する熱平衡状態だけなく、曲がった時空が持つ固有の緩和現象も記述できる。我々は具体例として、ド・ジッター空間中の(無限の過去でない)有限時刻で真空状態として生成された場を考え、ド・ジッター空間に置かれたUnruh測定器がしだいに熱的平衡状態に緩和していく過程を、その緩和時間も含めて、具体的に記述することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度からの研究で、非平衡熱力学を一般座標不変に定式化することに成功したが、今年度の研究により、局所熱平衡が保たれることを要請すると、系に新たに加えるべき力学変数の種類やその時間発展がかなり強く制限されることが分かってきた。 また、重力場が持つ熱的性質についても、これまでは長時間スケールに対応した熱平衡状態しか理解されていなかったのが、今回の研究により、有限時間での量子力学的遷移が計算できるようになり、時空固有の非平衡状態の緩和過程が具体的に扱えるようになってきた。 以上の2つの結果は、本研究計画を遂行させるために必要な『量子重力理論における基本原理の探索と基本的力学変数の同定』に対して、重要な足がかりを与えたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
重力の自由度も含めた非平衡熱統計力学の構築を行う。とくに、局所熱平衡仮説を第一原理として設定することで、量子重力理論の基本的力学変数の正体を解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
時空の発展方程式を数値的に解析するための計算機環境のさらなる整備と、海外での研究発表のための旅費などに研究費を使用する予定である。
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Research Products
(4 results)