2013 Fiscal Year Research-status Report
くりこみ群による相対論的非平衡系のホログラフィーの解明と量子重力理論の構築の研究
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23540304
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
福間 将文 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10252529)
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Keywords | 曲がった時空上の場の量子論 / 非平衡熱統計力学 / エントロピー / エンタングルメント・エントロピー / 量子情報 / AdS/CFT対応 / Unruh-DeWitt測定器 / 量子重力理論 |
Research Abstract |
昨年度に進展した『曲がった時空上の場の量子論』の手法をさらに発展させ、次の2つの結果を得た。 1.【ド・ジッター空間の非平衡熱統計力学的性質】 重力場は熱力学的性質を持つことが知られているが、とくに、いくつかの曲がった時空に対して、その中の物質場は、あたかも自身が熱浴中にあるかのように振る舞う。このことは、曲がった時空中に(物質場と結合する)量子力学的測定器(Unruh-DeWitt測定器)を用意し、そのエネルギー分布が時間とともにBoltzmann分布に近づくことで確かめられる。従来の研究では、十分時間がたったときの分布しか分からなかったが、我々は今回、測定器のエネルギー分布の時間発展を完全に記述するマスター方程式を書き下すことに成功した。 さらにそれを用いて、ド・ジッター空間の非平衡熱統計力学性質を明らかにした。具体的には、スカラー場の初期状態が(熱平衡に対応する)Bunch-Davies真空からずれているときの時間変化を考え、熱平衡への緩和時間が測定器の詳細によらない普遍的な量で与えられることを示した。 2.【共形不変でない場の量子論のエンタングルメント・エントロピーと対応する幾何】 場の量子論のエンタングルメント・エントロピー(EE)は、場の理論に対する新しい切り口を与えるものとして近年注目されているが、とくに、くりこみ群の固定点が記述する共形場理論(CFT)のEEは、AdS/CFT対応を通して、反ド・ジッター(AdS)空間の幾何を用いて表現できることが知られている。今回は、くりこみ群の固定点に有効な摂動を加えた時のEEについて、対応する幾何を具体的に調べた。特に、Gauss固定点に質量項の摂動をかけた時の計量テンソルを具体的に計算する方法を開発し、それを用いて、「量子場の量子情報理論的性質」と「重力側の幾何の性質」との間の対応関係を詳しく調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
重力場が持つ熱力学的性質に対し、今年度の研究では、定常時空に対応する平衡熱力学的な理解を超え、重力場の非平衡熱統計力学的構造の一端を明らかにすることに成功した。 また、エンタングルメント・エントロピーによる量子場の量子情報理論的性質の解析の結果は、重力場が持つ量子情報理論的性質を解明するための手掛かりになるはずである。 以上の2つの結果は、本研究計画を遂行させるために必要な『量子重力理論における基本原理の探索と基本的力学変数の同定』に対して、重要な足がかりを与えたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
重力の自由度も含めた非平衡熱統計力学の構築を行う。とくに、局所熱平衡仮説を第一原理として設定することで、量子重力理論の基本的力学変数の正体を解明する。また、量子情報理論と非平衡量子統計力学の基本原理から、重力場のダイナミクスがどこまで規定されるのかを詳しく調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の研究では基礎原理の理解が予定よりも大きく進んだため、時空の発展方程式の数値的解析は次年度に行うことにした。そのため、計算機を購入する資金をそのまま次年度に持ち越すこととなった。 時空の発展方程式を数値的に解析するための計算機環境の整備と、海外での研究発表のための旅費などに研究費を使用する予定である。
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Research Products
(4 results)