2012 Fiscal Year Research-status Report
第一原理計算による有限温度量子色力学物性と相対論的流体力学
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23540307
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
浅川 正之 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50283453)
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Keywords | 量子色力学 / クォークグルーオンプラズマ / 格子ゲージ理論 / 線形応答理論 / 輸送係数 / QCD相図 / 高エネルギー原子核衝突 / バリオン数揺らぎ |
Research Abstract |
まず格子ゲージ計算の部分に対しては、FermiQCDコラボレーションによる公開コードをもとに、擬熱浴法、過緩和法の部分を正しく加え、さらに使用した計算機に対して最適化行ったStandard Plaquette作用を用いた計算コードを用いてシミュレーション行い、各パラメーターに関して数百万個のゲージ配位を生成した。また、線形応答の一般論からずれ方向の応力の緩和時間とずれ粘性、法線方向の応力の緩和時間と体積粘性の比をユークリッド時空での格子ゲージ計算から求める定式化を行い、その比を実際に求めた。その結果、ずれ方向の振動モードについてはIsrael-Stewartによる流体力学の定式化において因果律は破られないが、縦方向のモードについてはIsrael-Stewartの定式化においても因果律が破れてしまう可能性があることが分かった。 さらに、当初計画していなかった課題としては、QCDの相構造を理解するために現在広く観測さている陽子数揺らぎは、ハドロン相においてデルタ共鳴を介した相互作用のために大きく変更を受けること示した。その上で、終状態における陽子数揺らぎが数学的に扱いやすい形を取ることを示し、それによって実験的に観測できない中性子数揺らぎの情報を補うことが出来、終状態の情報から始状態におけるバリオン数揺らぎの情報を復元できることを示した。2次、3次、4次のキュムラントについて具体的な公式を与えた。さらに、終状態において観測される陽子に対する、ストレンジネスをもったバリオンの寄与も考察し、上で述べた結論に対するストレンジネスバリオンの影響は小さいことを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記の研究実績の概要に記載の通り、格子ゲージ計算の部分に対しては、ほぼ当初の研究計画の通り進行している。さらに、当初計画していなかったバリオン数および陽子数揺らぎの問題に関して研究を進め、論文も複数出版され、研究の意義がすでに実験・理論のコミュニティーにおいて国際的にも認知されはじめている。そのため、当初の計画以上の進展があると考えられるため。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はこの研究課題の最終年度であるので、格子ゲージ計算を用いた輸送係数の研究においては、研究成果のまとめを行うとともに、この研究で得られた定式化を他の物理量の計算に応用する可能性を追求する。また、バリオン数揺らぎ、陽子数揺らぎの問題については、バリオン数や陽子数のハドロン相における拡散の問題を確率微分方程式の観点から考察を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度、旅費使用額が予定よりも若干少額であったので次年度に使用する予定の研究費が少額生じたが、次年度の研究計画は当初の計画から特に変更することなく、適切に使用していく。国際会議における情報収集・成果発表、国内における学会出席および研究打ち合わせ、参考資料の購入やコンピューターソフトウエアの購入に主に使用する。
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