2011 Fiscal Year Research-status Report
磁場を持つ高密度天体の平衡・準平衡解計算法の総合的開発と重力波天文学への応用
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23540314
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
瓜生 康史 琉球大学, 理学部, 教授 (40457693)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 相対論・重力(理論) / 重力波 / 相対論的宇宙物理学 / 数値相対論 / 連星中性子星 / ブラックホール-中性子星連星 / 中性子星磁場 / 国際研究者交流 フランス |
Research Abstract |
当初の計画に沿って,本年度の前半で磁場を持つ高密度天体の定式化を整備した。パリ天文台のEric Gourgoulhon 氏,ドイツJena大学研究員のCharalampos Markakis氏,及び東大の江里口良治氏との共同で,理想磁気流体の方程式系に対し解析的な第一積分が存在することを仮定した下での定常軸対称回転中性子星の最も一般的な定式化を行い,論文にまとめた。特に,方程式の数学的構造を明らかにするために,この定式化を微分形式を用いた完全に共変的な形で行った。さらに,この定式化を数値計算に利用しやすい形に修正した後,この3月にパリ天文台を訪問した際に我々のグループで開発中の高密度天体の平衡・準平衡解計算コード,COCAL(Compact Object CALculator),に実装し現在デバッグを進めている。 本年度の後半には,上述のCocalコードの基礎,特に複数の極座標を組み合わせた座標格子の生成と,その座標格子上での楕円型方程式の数値解法を完成させた。このCocalコードによる高密度天体計算法の詳細についての論文を,ギリシャ,エーゲ大学のAntonios Tsokaros氏と共著で出版した。この論文はCocalコードの基本的な参考文献となるものである。この論文では,連星ブラックホール(以下BBH)の初期データを例に用いて数値解の精度を評価すると伴に,数値相対論のブラックホール合体の初期条件に用いることのできる,空間的に共形平坦なBBH初期データの計算例を示した。さらに,パリ天文台のPhilippe Grandclement氏が開発中のKADATHコードで計算した同様のBBH初期データと我々がCocalコードで計算したデータとの相互比較を年度末の3月から開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主目標は,現実に宇宙に存在すると考えられる全てのタイプの高密度天体(太陽質量程度のブラックホールや中性子星,高密度物質からなる天体)の平衡状態または準平衡状態を求めるための最も一般的な定式化と,これらを統一的に計算可能な数値計算コードの開発を行うことである。特に,これまでにあまり考慮に入れられて来なかった強い電磁場も同時に取り扱えるようなコードを開発し,強い磁場を持つ中性子星(マグネター)のモデルとなる数値解を計算することを目的としている。平成20~22年度の科研費基盤研究(C)(20540275)「磁場をもつ連星中性子星の準平衡状態と数値相対論の初期データ」から継続的に研究を進められたことと,優れた研究者との共同研究を継続的に行えたことも幸いし,磁場を持つ高密度天体の計算については,実際の数値計算に利用可能な定式化を完成させ,この方程式系を数値的に解くためのCocalコード上でのプログラミングを基本的に終えることが出来た。実際に精度の良い数値解を計算出来るようになるまでにはもうしばらく時間がかかるであろうが,平成24年度中には完成できると考えている。 さらに,Cocalコードの重要な部分である連星系を計算するための基本的なサブルーチンの整備を終えることが出来た。この部分については,コンバージェンステストを十分行った結果精度を改良することに成功した。今後中性子星やブラックホールからなる近接高密度星連星の準平衡状態を計算する際に,座標格子の生成や楕円型方程式の解法から技術的な困難が現れることはなくなった。このことから今後Cocalコードを用いて,より現実的な高密度天体の計算を開始することが可能になったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的な方策は,Cocalコードの開発を継続的に進めることと,Cocalコードによる現実的な高密度天体モデルの構築と天体現象への応用である。特にコード開発の点では磁場を持つ中性子星計算コードを完成させる。この際に,解の精度を調べるためにEinstein-Maxwell時空中の電磁流体系のビリアル定理を導き,コードに実装することを計画している。応用面では,連星ブラックホールの準平衡解系列を共同研究者のパリ天文台のPhilippe Grandclement氏が開発中のKADATHコードで計算した解系列と比較・較正すると伴に,非等質量やブラックホールの自転がゼロでない場合などについて計算し,インスパイラルのモデルを求めることや,Cocalコードで計算された高速回転中性子星の解の安定性を東大の吉田慎一郎氏が開発した線形摂動論を用いて研究すること等を計画している。 また,今後Cocalコードを新たに利用する学生や研究者のために,Cocalコードを共同開発するための環境構築を開始する。具体的には,Apache Subversion によるCocalコードのバージョン管理,DoxygenによるCocalコードのドキュメントの整備,数値計算やコード開発の利便性を高めるスクリプトの開発を行い,前年度に購入したデータサーバー上でウェブサーバーを立ち上げてこれらのリソースを共有できるようにする予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は直接経費100万円が交付予定である。この内,50万円程度を共同研究者のEric Gourgoulhon氏(パリ天文台)を招へいするか,または,今年度と同様に本研究代表者がパリ天文台を訪問し,磁場を持つ中性子星計算法についての共同研究を進めるために利用する。 残りのうち20万円程度を計算機関連の費用に充てる。これには,ソフトウェアライセンス費用,周辺機器購入費用が含まれる。特に本年度の状況からデータ用ハードディスクを増設することが必要と考えている。また,上述の招へい費用のための他の外部資金等を獲得することができれば,本基金を計算サーバーの購入に充てるよう変更することも検討している。 残りの30万円程度を国際会議等での発表の際の旅費に充てる予定である。
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Research Products
(3 results)