2012 Fiscal Year Research-status Report
磁場を持つ高密度天体の平衡・準平衡解計算法の総合的開発と重力波天文学への応用
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23540314
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
瓜生 康史 琉球大学, 理学部, 教授 (40457693)
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Keywords | 相対論・重力(理論) / 重力波 / 相対論的宇宙物理学 / 数値相対論 / ブラックホール-中性子星連星 / 中性子星磁場 / 国際研究者交流 フランス:ギリシャ / 国際情報交換 アメリカ合衆国:ドイツ |
Research Abstract |
本年度の研究で,ポロイダルとトロイダル両成分の磁場を持つ高密度星の数値解を計算するコードを開発した。前年度にパリ天文台のEric Gourgoulhon 氏,ドイツJena大学研究員のCharalampos Markakis氏,及び東大の江里口良治氏との共同研究で,理想磁気流体の解析的な第1積分の方程式系を導いた。これを利用した定式化を数値的に解くサブルーチンを,本研究課題で開発中の高密度天体の平衡・準平衡解計算コードCOCAL(Compact Object CALculator)に実装しデバッグをほぼ終えた。このコードを用いて,約1.4太陽質量でコンパクトネスM/Rが幾何学単位系で約0.14程度の星のモデルで,10の18乗ガウスに達する極めて強い磁場を持つ回転高密度星の数値解を計算することに成功した。現在,数値解の精度の検証を行うと伴に,この結果を学術論文にまとめる準備をしている。 また,前年度に開発した連星ブラックホールの初期データを計算するコードの整備と拡張もこれと並行して行った。パリ天文台のPhilippe Grandclement氏の開発したKADATHコードによる連星ブラックホールの数値解と我々のCOCALコードによる数値解とを比較し,結果が十分な精度一致していることを確認した。この結果を学術論文として出版した。また,様々な値のスピンをもつ非等質量ブラックホールの初期データを数値計算するためのサブルーチンを開発し,このような初期データの計算を進めている。 さらに,修士の大学院生らと共同でトランペット型パンクチュア法を用いてブラックホールを計算するコードも開発した。これにより,上の研究で用いている見かけの地平面内をくりぬく手法だけでなく,数値相対論的シミュレーションで良く用いられるパンクチュア型データをCOCALコードで計算できるようになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度末のパリ天文台訪問の際に同天文台研究員のPhilippe Grandclement氏と共同研究を開始し,連星ブラックホール初期データ計算コードによる計算結果の精度の較正を行った結果,コードを大幅に改善することが出来た。また,エーゲ大学のAntonios Tsokaros氏を夏に琉球大学に招へいし,継続的にこのコードの拡張と改良を進めることが出来た。さらに,この結果が修士の大学院生らと共同で開発したトランペット型ブラックホールデータの計算の成功につながった。これにより,共形平坦なスライス上でのブラックホール計算に必要なサブルーチンについては,ほぼ全て開発に成功したと言える。 磁場を持つ回転中性子星の計算コードについても,やはり前年度末にパリ天文台に滞在した際にEric Gourgoulhon氏と議論をしながら,必要なサブルーチンを集中的にコーディングし,その後現在まで時間の許す限りデバッグを進めている。このような数値解の計算コードは大変複雑であり,得られた数値解との比較に利用できる対象もほとんどないため,精度を詳しく検証するにはもうしばらく時間がかかるが,基本的には極めて強い磁場を持つ場合まで数値解を計算することに成功している。このような,トロイダルとポロイダル両成分の磁場を持つ相対論的な回転星の数値解を求めることに成功したのは世界で初めてである。 これら以外にも,数年前に開発した共形平坦なスライス上で剛体回転する中性子星を計算するコードを,東大の吉田慎一郎氏との共同研究で,差動回転をする中性子星の解を計算できるように拡張することに成功した。このように,COCALコード上で様々な高密度天体の計算が可能になってきている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はこれまでの結果をまとめ,学術論文として出版すること,研究会・学会等での発表を増やすこと,また共同研究者や同じ分野の研究者らとの交流を増やすことを中心にして研究を推進したい。(大学の管理運営業務の制約から,コード開発などの長時間継続的に研究時間を確保する必要のある内容を減らす予定である。)まず,磁場を持つ相対論的回転星の計算法について1ないし2本の学術論文にまとめることと,トランペット型パンクチュア法による連星ブラックホールの初期データについての論文をまとめることを目標にする。 共同研究として,Antonios Tsokaros氏と非等質量連星ブラックホールの初期データの系統的な計算を行い,座標くり抜き法とトランペット型パンクチュア法による初期データの比較や任意のスピンをもつ初期データの計算等を進めていく。また,パリ天文台のEric Gourgoulhon氏らと,磁場を持つ回転中性子星についての共同研究も進める。特に,星の内部を流れる電流に含まれるパラメーター等を系統的に変化させることで,様々な強度や構造の磁場を持つ数値解の計算を行い,より現実的で安定な解を求めることを目指す。他にも,東大の吉田慎一郎氏と差動回転する中性子星の計算を行い,吉田氏の開発した星の線形摂動の計算コードを用いて,このような星の振動モード(主にfモードとpモード)と安定性の調べることも計画している。 時間が許せば,COCALコードをさらに拡張するために必要な基本サブルーチンを開発する。特に重力波や電磁波を含む初期データを計算するために必要なヘルムホルツ方程式を複数の極座標格子を組み合わせた座標パッチ上で解くためのサブルーチンを整備する。さらに,将来のコードの公開に向けてウェブページの立ち上げ等の作業を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の3月にEric Gourgoulhon氏を招へいする予定だったが,都合のため実現できなかった。このため約20万円を次年度に繰り越した。この研究費を利用し,本年度中にGourgoulhon氏,Tsokaros氏,もしくは他の海外研究者を招へいし共同研究を進めたい。(時間が許せば申請者本人が渡航して共同研究を進めることも考える。)
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Research Products
(5 results)
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[Presentation] 磁場を持つ相対論的回転星の数値解2012
Author(s)
Koji Uryu, Eric Gourgoulhon, Charalampos Markakis, and Yoshiharu Eriguchi
Organizer
ハドロン物質の諸相と状態方程式-中性子星の観測に照らして-研究会
Place of Presentation
京都大学基礎物理学研究所
Year and Date
20120830-20120901
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