2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23540317
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
安井 幸則 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30191117)
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Keywords | 素粒子論 / 数理物理 / 幾何学 / ブラックホール |
Research Abstract |
4次元Kerrブラックホール時空には,共形キリング-矢野テンソル(CKYテンソル)と呼ばれるテンソル場で記述される隠れた対称性が存在する. このようなCKY対称性は, 時空上の場の方程式が変数分離するというミラクルな性質に幾何学的な説明を与える. 近年, 本研究を通して, このようなCKY対称性が高次元Kerr時空にも存在することが明らかになった. 平成24年度の研究では, 上記の研究を超重力理論の高次元ブラックホール時空へ拡張した.超重力理論の舞台となる時空には重力場以外にも,スカラー場,反対称テンソル場等々いろいろな物質場が存在する. ブラックホール時空のCKY対称性は物質場が存在しても保存されるのであろうか? 超重力理論のブラックホール時空において場の方程式に変数分離性が現れる多くの例が知られている. この事実は, 計量テンソルの対称性だけから説明できるものではない. 超重力理論の高次元時空にも隠れた対称性が存在することを示唆するものである. 本研究では, 3階反対称テンソル場と時空のトーションを同一視することにより,拡張されたCKYテンソル(GCKYテンソル)を導入し高次元時空の分類を行った. まだ完全な分類には至っていないが, 我々のリストには回転するブラックホール, 電荷やNUTを持つブラックホール等々興味深い多数の高次元時空が含まれている. さらに, 異なるタイプの解として, Kahler with torsion (KT)やCalabi-Yau with torsion (CYT)を持つ解も発見された. 幾何学的には特殊ホロノミー多様体の変形とみなされるものであるが, これらの解の物理的な解釈は今後の課題である. 時空のリストを使って, 場の方程式の変数分離性も確認され, GCKYが超重力理論の隠れた対称性を記述することが明らかになってきた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の計画は, トーションを持つ共形キリング-矢野テンソル(GCKYテンソル)を使って超重力理論の高次元時空, 特に高次元ブラックホール時空を解明することであった. この問題に対し我々は「Local metrics admitting a principal Killing-Yano tensor with torsion」というタイトルの論文を重力理論の専門誌に発表した. この論文では, 高次元時空の分類を行い,超重力理論のブラックホール時空が対称性という視点から統一的に理解できることを示した. また,ブラックホール時空上の場の方程式の変数分離性が,GCKYテンソルの存在から一般的に導出できることを示した. 最近の進展は, 超重力理論のBPS解の分類を目指し佐々木多様体を拡張したことである. 佐々木多様体はKahler多様体の奇数次元版として, 1960年代の佐々木重夫の研究に端を発することからこの名前がつけられている. 我々は, トーションを使って佐々木多様体を変形することにより超重力理論のBPS解が記述できることを発見した. この結果は, arXiv:1207.0247に「A deformation of Sasakian structure in the presence of torsion and supergravity solutions」というタイトルで発表している. ここでも,GCKY対称性は具体的な解を構成する際に必要な数学的な道具を与えることがわかり,その重要性は益々確かなものになった. 以上のように本研究は着々と進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の研究を継続しGCKY対称性を許す超重力理論の高次元時空の分類を行う.1つの目標は, GCKY対称性の次元公式を見つけることである. GCKY対称性の大きな特徴は微分形式で書けていることである.この特徴を生かした新しい解析手法を導入したいと考えている.より具体的には以下のような計画である.GCKY対称性を見つける問題は線形な偏微分方程式を解く問題に帰着する.方程式を接束の空間で考えていたのでは研究手段を狭めてしまう.そこで,もう少し拡大された空間(微分形式の空間)を使って研究を進める.この空間では,Levi-Civita接続ではなくKilling接続が有効に働く. 実際, Semmelmannの最近の研究で見られるように,Killing接続を使って佐々木多様体上のCKY対称性を解析することができる.また,4次元Kerrブラックホール時空のCKY対称性の次元公式も,この考え方を使って再導出できることが確認できた. Killing接続のブラックホール時空への応用はこれまでになかった新しい切り口である. これ以外の方向性として, GCKY対称性のGeneralized Geometryへの拡張を試みる. Generalized GeometryはHitchin(2002年)によって導入された新しい幾何学である. ここでも拡大された空間(接束と余接束の直和空間)が導入される. 最近,この拡大された空間上でEinstein方程式を考えると,「Ricci平坦条件」が超重力理論の運動方程式の解空間と一致することが証明された. この結果は, GCKY対称性の研究にGeneralized Geometryが有効に働くことを強く示唆するものである. 超重力理論の時空とはGeneralized Geometryの意味で何を意味するのかを考察し,有用な一般論の構築をめざし研究を進める.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(7 results)