Research Abstract |
有限核でのK中間子とハイペロン(Y)の共存の可能性についての相対論的平均場理論 (RMF) に基づく研究を,H23年度の実績を基に,更に発展させる方向で継続させた。H24年度は,これまで考慮されなかった, K-中間子が関与しないΞ-生成過程,Λ+Λ---> Ξ- +p,Λ+Σ----> Ξ-+nを取り入れることによって, マルチストレンジネス原子核の基底状態としてΛ, Σ-,Ξ- 及びK- 中間子が共存する可能性を検討した。 結果は, K-中間子の光学ポテンシャルの深さUK について,|UK|<180 MeVの場合,標的核に与えられたK-中間子は すべて核子に吸収され, 基底状態は初めに与えられたストレンジネスをYがすべて担うマルチハイパー核となる。このことは, ハイペロンが混在せずにK-中間子のみが束縛された原子核は,マルチハイパー核よりも高いエネルギー状態として存在することを意味する。 一方, UK=-180 MeVのように, K-中間子が核子から受ける引力の大きさを非常に大きくした場合, 基底状態におけるストレンジネスは,主としてK-中間子の束縛によって担われるが,Yの混在も可能となることを示した。現時点での研究成果は, 物理学会, 国際ワークショップ等で発表した。 更に,上記の様に有限核に適用した相互作用模型と同じ理論的枠組みを用いて,中性子星内部の高密度核物質中での K中間子凝縮とハイペロン物質との共存に基づく状態方程式(Equation of State,EOS)と自己束縛状態の可能性, 及びその安定性に関する予備的研究を行い,原子核におけるマルチストレンジネスの構造と, 中性子星内部のような無限系のハドロン物質におけるK中間子凝縮とハイペロンの発現の関係を統一的に検討する基礎を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初H24年度に実施予定だった有限核でのK中間子とハイペロンの共存の可能性については主要な結果がまとまり,論文の形にするために検討すべき点を精緻化する段階である。この課題についてはほぼ計画に沿って達成出来ている。一方,中性子星内部の高密度ハドロン物質中でのK中間子凝縮とハイペロン物質との共存に基づく状態方程式(EOS) に基づく高密度星の構造,天体現象との関連については,当初の計画以来,重い中性子星の観測が報告され,その結果と矛盾しないように非常に高い密度領域でEOSを堅くする効果を検討する必要性が出てきたことがあり,この問題はこれから新たに取り組むべき研究課題として位置づけられる。現在予備的研究が進展しつつある段階であるが,まとまった結論を得るためには今年度の主要な計画として継続的に位置づける必要がある。これに呼応して,当初H25年度の研究計画であった,ハドロン物質中及びクォーク物質中でのK凝縮の微視的機構の違い,相図上の相互関係についての検討を開始する時期がやや遅れることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
中性子星内部の高密度核物質中での K中間子凝縮とハイペロン物質との共存に基づくEOSと自己束縛状態の可能性, 及びその安定性に関する研究課題を遂行する。ハイペロン物質中でのK凝縮の発現とK凝縮 EOS の性質を, これまで余り着目されなかった以下の諸点を考慮することによって新たに検討し, 最大質量, ニュートリノ放出による冷却等, 中性子星観測量にどのように反映されるかを調べ,K凝縮相, 特に「K凝縮自己束縛状態」の存在が観測と整合する可能性について明らかにする。 「K中間子-バリオン相互作用についての諸効果」に関連して, (1)K凝縮の起因力として重要な,S波K中間子-バリオン相互作用の検討を行う。特に カイラル対称性を顕わに破るスカラー型相互作用の大きさの不定性, およびベクトル型相互作用の核子とハイペロンによる効き方の違いについて調べる。(2)P波K中間子-バリオン相互作用を取り入れ, バリオン状態を核子とハイペロンの状態の重ね合わせである準粒子状態として記述することによって, EOS にもたらす効果を検討する。 「バリオン間相互作用についての諸効果」に関連して, (3) バリオン間相互作用のユニバーサル3体力による斥力効果を取り入れ, K凝縮-ハイペロン物質共存相の発現, 構造, 物性にどのような影響があるかを調べる。(4)K中間子交換型バリオン間相互作用におけるK中間子ダイナミクスの変化とバリオン間相互作用の斥力効果との関係を調べる。更に, 「ハドロン相からクォーク相への移行に伴うK凝縮の様相の変化」として, (5) ハドロン物質中およびクォーク物質中でのK凝縮相の相平衡・連続性を詳細に調べ, (6) ハドロン相とクォーク相をつなぐクロスオーバー領域のEOS の性質が中性子星の最大質量に如何に影響するか検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究課題そのものの大きな変更はないので, 当初の研究予算のままで研究を遂行する予定である。 具体的には,物品費,研究代表者の国内,及び海外の学会・研究会出張旅費, 研究協力者(高塚龍之氏(岩手大学・特任教授))の国内研究会出張旅費, 当研究課題に関連して実施された研究会のプロシーディングズ印刷費等に使用する。
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