2012 Fiscal Year Research-status Report
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23540321
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
井上 貴史 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (80407353)
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Keywords | Hダイバリオン / 格子QCD / エキゾチックハドロン / ハイペロン相互作用 / バリオン間相互作用 / ストレンジネス |
Research Abstract |
本研究は格子QCDの数値計算によって、Hダイバリオンの存在を探る研究である。 初年度にはクォーク質量が縮退したフレーバー対称極限と呼ばれる世界を調べた。その結果、クォーク質量のある領域で安定なHダイバリオンが存在する確証を得た。この成果はバリオンとメソン以外にハドロンが存在可能な事を世界で初めて実証した快挙である。本成果は国際会議 Lattice Field Theory (Lattice 2011) や Particles and Nuclei (PANIC 2011) を初めとして多くの国内外の会議において公表され、高い評価を得た。また、この成果を公表した論文は物理の世界で最も権威がある Physical Review Letters 誌に掲載され、さらにその巻のハイライト論文にも選ばれた。本成果を受けて JPARC 等の施設でHダイバリオンを見つける実験が計画されるなど、ハドロン物理学界に大きな影響を与えている。 2年目である本年度には、フレーバー対象性の破れのHダイバリオンに対する影響の現象論的な予想を行った。破れによってHダイバリオンは、少なくとも、安定な粒子から崩壊する共鳴状態に移る可能性が高い事が判った。この結果は国内外の会議において公表され、興味深く受けとられている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は格子QCDの数値計算によって、Hダイバリオンの存在を探る研究である。初年度に1つの体積で束縛状態を判定する新しい方法を考案し、それによって予定よりも早く業績の項目に記載した成果を上げる事ができた。2年目である本年度には、Hダイバリオンに対するフレーバー対称性の破れの影響を調べた。膨大な計算時間を要する完全なQCD数値計算の代わりに、QCD数値計算と実験データを併用する方法を用いた。それによって短期間に現実世界の予想を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は格子QCDの数値計算によってHダイバリオンの存在を探る研究であるが、業績の項目に記載した様に、既にフレーバー対称世界のクォーク質量のある領域で安定なHダイバリオンが存在する事を明かにした。今後はクォーク質量の領域を広げて調べることにより、安定なHダイバリオンが存在する領域とその束縛エネルギーのクォーク質量依存性を明かにしたい。また、高密度バリオン物質の状態方程式に対するハイペロンの影響、特にHダイバリオンの存在が与える影響についても調べたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、クォーク質量の小さいフレーバー対称世界、すなわちカイラル極限において、Hダイバリオンの存在とその束縛エネルギーを調べたい。その数値計算に用いる為、筑波大学のスーパーコンピュータシステム T2K-Tsukuba の一般共同利用を申請する。2ヵ月の利用料として、67万円を当助成金で支払う予定である。また、7月にドイツで開催される格子QCD業界で最大の国際会議 International Symposium on Lattice Field Theory に参加し、研究成果の公表と、ライバル研究者の進展状況の調査をしたいと考えている。その参加費用に当助成金を使用する予定である。本年度は初年度に交付が遅れた3割分を持ち越した。ほぼ同額の次年度使用金が発生している。
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