2012 Fiscal Year Research-status Report
次世代計算機・観測から迫る高エネルギー爆発天体現象の理論的解明
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23540323
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
固武 慶 国立天文台, 理論研究部, 助教 (20435506)
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Keywords | 重力崩壊型超新星 / ニュートリノ / 重力波 / ガンマ線バースト / 輻射流体計算 / スーパーコンピューティング / マグネター / 中性子星 |
Research Abstract |
(1)コラプサーモデルは長い継続時間を持つガンマ線バーストの物理的起源を説明するモデルとして最も有力なモデルである。大質量星の中心核におけるニュートリノ冷却・加熱を近似的手法によって取り込んだ2次元の重力崩壊の特殊相対論的磁気流体数値シミュレーションを行い、ブラックホール周りの降着円盤の長時間の動的変化、それに伴って放射される重力波放射について調べた。結果、遠心力の効果で扁平になった準定常状態の降着円盤から「非等方に放射される」ニュートリノが重力波の源として最も大きな寄与を持つことを明らかにした。この重力波は10Mpcの距離にあるコラプサーに対して、DECIGOをはじめとする次世代重力波検出器の検出限界内にあることを指摘できた。降着円盤がブラックホールに吸い込まれると、重力波のシグナルが突然消失する。このように重力波シグナルから明らかにできる中心エンジンの具体的物理的性質(ここでは角運動量)に関する示唆が得られることを示したのが、本成果の大きな特徴になっている。また非等方性を正確に見積もるために、一般相対論的時空におけるレイトレース法に基づく輻射輸送計算法を開発することができた。 (2)超新星爆発の3次元輻射流体流体シミュレーションを世界に先駆けて実行した。輻射計算に関しては、光線分割法によって超並列計算を可能にした独自のスキームを実装しているのが特徴となっている。本年は空間解像度の依存性を系統的に調べ、爆発エネルギーや衝撃波の形状において一定の数値的収束が得られる分解能が存在することを指摘した。 (3)磁気回転不安定性(MRI)に関する局所シミュレーションを行った結果、重力崩壊前の親星が高速回転している場合、MRIによる自転エネルギーの散逸により、従来のニュートリノ加熱爆発を助けられる可能性があることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究概要に記したそれぞれのテーマに関して達成度に関する自己評価を記載していく。 (1)従来のコラプサーの流体シミュレーションにおいては、大質量星の重力崩壊から開始して典型的には1秒以内の動的進化にフォーカスしたものがほとんどであった。本シミュレーションでは中心のブラックホールは計算の内部境界条件として簡単化しつつも、観測されるガンマ線バーストの典型的継続時間である10秒を磁気流体シミュレーションでカバーすることに成功したのが大きな特徴となっている。この長時間計算に伴っては、従来の核密度付近の状態方程式から(ブラックホールによる流体吸収によって薄くなった)低密度付近まで連続的に覆うものに拡張すること、さらに低密度強磁場領域の計算を可能にする数値計算法の工夫も必要で、これが従来の研究のボトルネックになっていた。この両者を克服し、さらにブラックホールの存在によりゆがんだ時空の下、源泉関数の効果まで含めた一般相対論的ニュートリノ輻射輸送を行ったこと、それに基づき重力波の定量的予測を行ったこと、二点とも当初の計画よりも早いスピードで進めることが出来た。 (2)超新星爆発の数値計算はその計算コストの高さから、計算結果の数値分解能依存性を調べることは至難の課題であった。例として、二次元軸対称性を仮定したシミュレーションでも一つのモデルに関して爆発までカバーしようとすると、512並列の計算を持ってしても2カ月ほどの計算時間を要する。幸い昨年度から稼働している次世代スパコン・京の優先課題に選んで頂いたことで、(世界に先駆けて)3次元計算における数値分解能依存性を調べるという当初の計画よりもさらに踏み込んだテーマに関する研究を行うことができた。 (3)上記成果の発展課題として神戸大学の政田洋平氏との共同研究を行い、MRIに関する新機軸のテーマを開始することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)今後は現在のコラプサー計算用の数値コードを拡張していき、3次元計算を行うことを計画している。非軸対称モードが動的進化に及ぼす効果、さらに重力波をはじめとする中心天体のエンジンを探る上で欠かせない観測量にどのような効果を及ぼすか調べ上げたい。従来のスペクトル解析に加え、スペクトログラム解析を行うことで、重力波のスペクトル強度分布の時間進化に関する詳細な解析を行う計画である。また更にこれまでに開発を済ませたレイトレース法に基づくニュートリノ輸送計算を活用し、降着円盤から照らされるニュートリノの自己相互作用の効果を調べることを計画している。自己相互作用によって高エネルギーを持つタウ・ミューニュートリノが電子型のニュートリノに変化し、実効的に反応率が上がりアウトフロー形成を助ける可能性が示唆されているが、このシナリオが実際に機能するか数値シミュレーションで確かめてみたい。 (2)本科研費の最終年度は、星の自転がニュートリノ加熱爆発に及ぼす効果を精査する計画である。自転によって扁平になったニュートリノ放射面からは、自転軸方向に卓越した高エネルギーニュートリノが放射され、その方向に爆発することが予想される。実際に重力崩壊から首尾一貫した3次元の自転コアの長時間の動的進化を追うことで、この予想の成否を確認し、さらに爆発に伴って放射される重力波・ニュートリノの観測可能性を明らかにする計画である。特に両者の相関解析をとることで、マルチメッセンジャー天文学の重要性を強く印象づける成果を得ることを狙っている。 (3)これまでの原子中性子星付近の局所領域に注目したローカルシミュレーションの計算領域を広げていきたい。具体的には、計算の外部領域からのフィードバックを首尾一貫して取り入れることが出来るセミグローバル計算を行う計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本科研費最終年度となる本年度は、これまでに得た結果を国際・国内学会で広く発表することを計画している。国内の物理学会、天文学会はもとより、5月中国、9月スペインで、12月アメリカで開かれる国際学会にて発表する計画である。
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Research Products
(17 results)