2014 Fiscal Year Research-status Report
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23540329
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
磯 暁 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (20242092)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2017-03-31
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Keywords | インフレーション / 暗黒エネルギー / 非平衡場の量子論 |
Outline of Annual Research Achievements |
時空の地平面が重要な役割を果たす物理現象として、ブラックホールからのホーキング輻射とドジッター時空での揺らぎの量子生成があげられる。昨年度は、質量のないスカラー場の揺らぎの成長を考えた。特にドジッター時空でつくられた揺らぎのエネルギー運動量テンソルが、輻射優勢と物質優勢の時代を経て現在に至るまでどのように進化するかを解析し、圧力とエネルギー密度の比wが -1/3から1/3へ移り変わって行くことを明らかにした。今年度はこの解析を、現在のハッブル定数と同程度(まはた多少軽い)の質量をもつ場合へ拡張した。その結果、圧力とエネルギー密度の比が w=-1となり、現在の暗黒エネルギーの候補となりうることがわかった。またハッブル定数が質量と同じ程度の大きさまで減少するとスカラー場は振動をはじめるが、この時のエネルギー運動量テンソルの振舞いの詳細を明らかにした。さらに、このような軽いスカラー場を与える模型構築や、相互作用の影響、特にミスアライメントとよばれる場の初期値の問題などについての考察を行った。特に、重力との非ミニマル結合が、原始インフレーション期でのミスアライメントを抑制することがわかった。相互作用の効果をより精密に見積もるためには、非平衡場の量子論の手法であるKadanoff Baym方程式と場の0モードの方程式を連立させて解く必要があり、これは来年度の課題である。 以上の研究と平行して、右巻きニュートリノの質量が縮退している場合におけるレプトン生成の機構を、Kadanoff Baym方程式を使って解析し、そこから密度行列の発展方程式を導くことに成功した。さらに、インフレーション後の再熱化をプレヒーティングとよばれる非摂動的手法を使って解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
非平衡場の量子論の手法が、当初予想していたブラックホールからのホーキング輻射を超えて、暗黒エネルギーの性質や共鳴レプトン生成、インフレーション後の再熱化などさまざまな物理系に共通に適用できることがわかり、研究に広がりが出て来たため。
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Strategy for Future Research Activity |
非平衡場の量子論の手法、特にKadanoff Baym方程式と凝縮場の方程式を組み合わせた連立系の解析をさらに進め、暗黒エネルギーの性質やインフレーションの再熱化(preheating)についての理解をさらに深めて行く。暗黒エネルギーについては、軽い質量をもつスカラー場の安定性や相互作用の効果を含め、より具体的な現象論的な模型構築をめざす。またスカラー場がボーズ凝縮することで暗黒エネルギーが生成される機構についても調べて行く。 インフレーション後の再熱化については、コールマンワインバーグ機構によって電弱対称性が破れる模型に基づき、宇宙初期に大きな場の初期値をもつ状態(Large Field Inflation)から、preheatingによって二回目のインフレーション( Small Field Inflation)が引き起こされる機構を明らかにする予定である。特にpreheatingによって、二回目のインフレーションにおける場の初期値問題(揺らぎが十分小さくなる必要性)の解決をめざす。
これらの研究と平行して、ブラックホールの地平面における場のエンタングルメントの効果を、量子力学の弱値の観点を取り入れて行う予定でいる。
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Causes of Carryover |
当該科研費で支出を予定していた海外出張が一部キャンセルとなり、また一部先方支出となり、予定していた金額を使用しなかった
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
主に研究打合せおよび研究発表のための海外旅費として使用する
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