2011 Fiscal Year Research-status Report
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23540331
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
仁尾 真紀子 独立行政法人理化学研究所, 初田量子ハドロン物理学研究室, 仁科センター研究員 (80283927)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流(米国) / 電子 / ミューオン / 異常磁気能率 / 量子電気力学 / 数値計算 |
Research Abstract |
ミューオンおよび電子の異常磁気能率(g-2)への量子電気力学(QED)からの寄与のうち、摂動計算8次および10次の項を求める計算を行った。本年度は8次の各寄与を与えるファインマン図の全グループに対して、新しく計算プログラムを作り直し、従来の計算のチェックを行った。既存計算が再現できることを確かめた上で、従来、計算されていなかった質量依存項(電子g-2へのミューオン粒子の寄与、ミューオンg-2へのタウ粒子の寄与)を求めた。これらの寄与はともに十分に小さいと考えられていたが、実験および理論値の精度が向上したことで、必要とされるようになった項である。 また、8次の光子4個からなる補正項の計算の高速化を実現した。従来は4倍精度実数を使用して数値計算を行っていたが、数値的に安全な領域では倍精度、多少でも危険性のある領域では4倍精度と自動的に切り替えるようにプログラムを全面的に書き換えた。これによって、2割程度の実実行時間の短縮を行うことができた。 10次の計算においては、32のゲージ不変セットのうち、これまでの成果も含め31セットについて結果を得ることができた。昨年度は、そのうちフェルミオンループを含む最も計算の困難な3セットについての結果を発表した。残りは光子5個からなる補正項のセットだけとなっている。また、比較的簡単に計算できる10次のセットについても、再計算を行い、既存の結果の再確認を行った。これらの成果によって、10次での質量依存項を完全に確定することができた。 これらの研究全般について、木下東一郎氏(米国コーネル大学)と共同研究を行った。また、個々の研究テーマについては、早川雅司氏、青山龍美氏(ともに名古屋大学)に研究協力を仰いだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では大型の数値計算を理化学研究所のスーパーコンピュータシステムRICCによって実行している。本年度の研究推進にあたって、当初、最も懸念されたことは、節電要請によるRICCの運転停止および規模縮小による運用であった。数値計算の大幅な遅れが心配されたのである。 幸い、理研の関係各所の努力と配慮により、RICCは春から初夏にかけて縮小運転を行っただけで、残りの期間はフル稼働となり、私たちの計算の遅延も最小限の影響ですんだ。縮退運転中に、計算資源が比較的少なくても計算可能な8次の新プログラムのチェックや、質量依存項の計算を行い、フル稼働時に大規模計算を行うという切り分けが上手くいったためである。 最終的な目的である8次および10次の寄与の確定まで、あと一息のところまでこぎ着けられた。順調に進展しているというべきであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
電子およびミューオンg-2への量子電気力学からの寄与のうち、摂動8次の項は質量非依存、依存項の両方をすべて確定した。今年度は摂動10次の項のうち最後のセット、光子5個の補正によるセットSet Vの寄与の確定を目指す。 これまでの研究で、SetVの数値計算と、そのくりこみ計算は一応、完成しており、試験的な値は得られている。このSetVはそれを構成するファインマン図の数も多く、くりこみの構造も複雑を極める。現在の値は、理研のスーパーコンピュータを数年にわたって稼働させ続けた結果としてようやく得られたものである。これを独立な数値計算で検証することは不可能である。そのため、検証は、SetVの構造を論理的に解析し、その論理と、数値計算プログラムの自動生成アルゴリズムに、齟齬がないかを確認することで行う。 SetVの検証が終了し値が確定し次第、摂動10次の全寄与を発表する。それとともに、電子g-2の実験値と理論値を用いて、微細構造定数を従来の2/3の精度で決定することを行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度は木下氏(米国コーネル大学)の3ヵ月間の招聘を企画したものの、氏の家族の体調不良により、ごく短期間の来日のみとなった。家族の健康が回復次第、3ヵ月程度の来日計画がすすんでいる。この招聘に研究費の多くを使用する予定である。 また、10次の最後のセットの値が確定し次第、国内外の国際会議での発表を行う予定である。これらの参加旅費に研究費を使用する。
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