2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23540333
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
笠木 治郎太 東北大学, 電子光理学研究センター, 名誉教授 (10016181)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 核反応 / 液体Li標的 / D(d,p)T反応 / 超音波キャビテーション / 高温度プラズマ / 遮蔽エネルギー / α崩壊 |
Research Abstract |
固体・液体金属中での核反応や核崩壊を大きく変化・増大させる方法開発とそのメカニズムの理解を目的に、二つの課題で研究が進められた。(a)液体金属超音波キャビテーション内での核融合反応:これまでの液体Liを用いた実験で取得されたデータ解析が詳細に進められた。50 keV重陽子によるD(d,p)T反応で放出された陽子ピークは、キャビテーションを作用させた場合のみ、裾が広がって観測され、通常の反応から得られる形状ではないことが明らかになった。運動学的な解析結果から、液体Liキャビテーション内で生じている重陽子プラズマは、100万度K以上の高温状態にあることが判明した。また、反応収量を説明するためには、キャビテーション内の重陽子数密度は、少なくとも10E24/ccであることがわかり、重陽子照射下の液体Liキャビテーション内には、高温高密度の重陽子プラズマが生成されていると結論された。これらの成果は論文として取り纏められ、現在、Physical Review C 誌に投稿中である。(b)固体金属中での動的遮蔽効果によるα崩壊促進:α崩壊核147Smを20% 程自然に含んでいるSm金属板を対象に実験を行った。Sm金属板を低エネルギー重陽子ビームで照射し、放出α粒子のスペクトルをビーム照射on/offの条件で比較した。実験では、15keV D3+ビームを用いて、10秒照射-10秒照射無しの測定サイクルを長時間行い、金属板表面付近に対応するEα=2.0~2.23 MeV部分の収量比(R)が求められた。結果は、R=1.19+/-0.02となり、ビーム照射に伴う遮蔽エネルギーの上限値は、19.3keVと求められた。この値は、以前、Sm中のDD反応の遮蔽ポテンシャルを測定する際に副次的に求めた上限値とは、矛盾しない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年の大震災により、主要装置である大強度ビーム照射装置が故障し、修理後ビームが得られるようになったのは23年12月であった。また、同時に、超音波キャビテーション標的システムも損壊したため、再製作を余儀なくされた。これらの事情により、重陽子ビームを用いた液体金属キャビテーション実験が開始されるのは、24年7月ころと見込まれる。この間、以前の実験データの解析は予定通り進行した。更に、23年12月のビーム復帰後は、固体Sm標的を用いて、「動的遮蔽効果によるα崩壊促進」の実験は予定どおり行われた。
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Strategy for Future Research Activity |
(a)液体金属超音波キャビテーション内での核融合反応 これまでのデータ解析の結果、液体Liに関しては、超音波キャビテーションの効果を判定することができた。そこで、次年度は50keVの重陽子ビームを、液体Ga超音波キャビテーション標的に照射し、D(d,p)t反応を詳細に測定する。反応率と陽子ピークの形状を、超音波のON/OFFに対して比較し、超音波キャビテーション内の重陽子プラズマの状態パラメータを得る。 更に、ビームを用いないで液体金属キャビテーション内でのDD核融合反応の観測を目指し、液体金属に重水素を溶解させる装置を製作する。Ga,In,Li等の液体金属への重水素溶解度を温度の関数として測定する。また、超音波を作用させる装置を設計・製作する。(b)固体金属中での動的遮蔽効果によるα崩壊促進 動的遮蔽効果は、ビーム照射中の電子の振る舞いがビーム照射の無い状況と著しく異なっているために引き起こされると期待される。従って、電子によるエネルギー損失が大きなビームを用いた方が、効果がはっきりと観測されるのではないかと考察している。そこで、次年度はα崩壊核147Smを含んでいるSm金属板を50 keVの陽子で照射し、ビーム照射ON/OFF時の放出α線のスペクトルを詳細に比較する。重陽子ビーム実験の経験から、ビーム照射に伴う遮蔽効果の有意な結論を得るためには、統計精度が問題になる。検出器の立体角をできるだけ大きくした測定系を構築し、測定を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、当初計画していた実験の進行が、震災による装置の故障により遅れたため発生した未使用額であり、平成24年度請求額と合わせ、計画している研究の遂行に使用する予定である。
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