2011 Fiscal Year Research-status Report
素粒子実験で用いる半導体受光素子の微弱光検出能力の限界を探る
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23540338
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
吉田 拓生 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30220651)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 素粒子実験 / 半導体受光素子 / シンチレーション光 / チェレンコフ光 |
Research Abstract |
今年度は、アバランシェフォトダイオード(APD)やマルチピクセルフォトンカウンター(MPPC)などの半導体受光素子の性能評価を次年度から本格的に行うために必要となる以下のような装置を製作した。 はじめに、半導体受光素子冷却装置の改造を行った。これまでは、半導体受光素子のノイズを抑えるためにペルチエ素子を用いて冷却していたが、この場合、冷却温度は-50℃が限界となる。本研究ではこれまで以上に受光素子のノイズを抑える必要があることから、この冷却装置を改造し、液体窒素を用いて受光素子をさらに低い温度まで冷却できるようにした。 次に、半導体受光素子の性能評価を行うための光源を製作した。本研究では、平均光子数10個以下の極めて微弱な光信号を必要とする。このため、シンチレーティングファイバーにβ線を照射したときのシンチレーション光を利用した光源や、透明のアクリル樹脂に宇宙線μ粒子を照射したときのチェレンコフ光を利用した光源などを製作した。さらに、発光ダイオード(LED)に時間幅数十ナノ秒程度の速いパルス電圧を送ることによって微弱な光パルスを発生させるタイプの光源も製作した。特に後者の光源は、用いるLEDの種類によって様々な波長の微弱光パルスを作ることができ、受光素子の諸特性の波長依存性を調べる際に便利である。これらの光源を用いて、APDの二次電子増倍率や過剰雑音係数を測定する予備実験を既に開始し、良好な結果も得られている。 さらに、信号読み出し用電子回路の製作も行った。半導体受光素子の内、特にAPDで極めて微弱な光信号を読み出す場合、APD自体の光電子増倍率があまり高くないため、それを補うことができる極めて高利得・低ノイズの荷電有感型アンプが必要となる。このため、デジテックス社のアンプチップHIC-1576を用いた増幅回路を作製した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度の課題として当初計画していた「半導体受光素子を冷却する装置の改造」、「光源の作製」、「信号読み出し用電子回路の作製」については、全て目標を達成することができた。特に、光源については、当初の予定になかった「チェレンコフ光を利用した光源」も作製することができた。強いて言えば、信号読み出し用電子回路について、まだノイズフィルター回路を工夫する余地が残されているが、当面、これが無くても十分良い精度で測定できることを既に確認している。また、当初は次年度から始める予定であったAPDの二次電子増倍率の測定や過剰雑音係数の測定を、今年度中に開始することができ、まだ室温中での測定に限定された予備実験の段階ではあるが、既に十分良い結果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に完成させた測定装置を用いて、APDやMPPCに微弱な光信号を照射し、その性能評価を系統的に行う実験を本格的に開始する。はじめに半導体受光素子の二次電子増倍率(Gain)や過剰雑音係数などを測定し、素子の基本特性を把握した後、微弱光に対する検出効率や光量測定精度を測定し、入射する光の波長や受光素子の冷却温度などとの関係を詳しく調べる。本研究では、素粒子実験用の粒子検出器に適していると考えられる以下の(1)~(3)の各種半導体受光素子を性能評価の対象とする。平成24年度に(1)から始めて、翌平成25年度中には(3)までの測定を終えてしまう予定である。(1) 浜松ホトニクス 短波長タイプ・シリコンAPD S8664-55 および S8664-1010(2) 浜松ホトニクス MPPC S10362-11-100C、S10362-33-100C、および特注品(3) 浜松ホトニクス 短波長タイプ・シリコンAPDアレイ SPL2367 および SPL2368(特注品)平成26年度以降は、本研究で用いた半導体受光素子を実際の粒子検出器に取り付け、実用化する研究も行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
各種半導体受光素子の性能評価実験を行う際にNIM規格、CAMAC規格の各種計測用モジュール類が必要となるが、これらについて、現有品だけでは不足する分を新たに購入する必要がある。特に、CAMACシステムのクレート「テクノランドC-PS600、\460,000」およびクレートコントローラー「豊伸電子C014、\310,000」については、本研究専用のものを一式購入する必要がある。また、APDの出力信号の波高分析を行うために、CAMAC規格のADC「豊伸電子C008、\330,000」も購入する必要がある。
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Research Products
(6 results)