2012 Fiscal Year Research-status Report
LHC ATLAS実験における新粒子探索用ミューオントリガーの開発
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23540358
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
長野 邦浩 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (90391705)
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Keywords | ATLAS / LHC / トリガー / ミューオン / 新粒子探索 |
Research Abstract |
昨年度に本研究において新規に開発した、ミューオン検出器だけを用いるトリガーアルゴリズムをATLAS実験全体のトリガーに組み込んで、2012年運転で実際にオンラインで稼働させた。導入した改良箇所はすべて予定通り機能し、ATLAS実験ミューオントリガーの効率を高める事に成功した。 一方、ミューオン検出器だけを用いる新粒子探索用トリガーで高くなってしまうトリガー頻度を下げるために、検出時間から飛跡を再構成するパターン認識アルゴリズムの改良と、2012年運転から導入された、磁場が複雑でトリガー頻度が高い領域を新たにカバーする検出器を用いたトリガー論理の開発を進めた。パターン認識改良においては、ドリフト時間から位置座標への変換の際の二択の不定性を解く論理の改良や、パターン認識に用いるドリフトチューブの選択範囲を最適化するなどしてトラックの誤認識率を下げることが出来た。これにより、特に、崩壊二次粒子やカロリメータ内での反応による粒子などといったバックグラウンドを排除するために重要な最内層のミューオン検出器での誤認識を40%も減少させる事が出来た。研究を行った大学院生はこの課題で修士論文を書いた。新しい検出器を用いた改良においては、高いトリガー頻度の原因である悪い運動量分解能を向上させるための手法を確立することが出来た。 これと平行して、ミューオン検出器で測定された時間情報をもとに検出粒子の速度を測るアルゴリズムの開発と、内部のカロリメータでの時間情報も用いて検出粒子の速度を測るアルゴリズムの開発も開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現行ソフトウェアでは目指す拡張が技術的にも難しく、書き直して全て一から開発する必要があったが、開発した新しいトリガーアルゴリズムも実験全体のオンライントリガーへ組み込んで問題なく動作させることが出来た。これにより、ATLAS実験の実際のデータ取得で効率を上げることも出来たうえ、ソフトウェアの基盤も完成することができた。 ミューオン検出器のみを用いる新粒子探索用トリガーでは、バックグラウンドのためにトリガー頻度が高くなりすぎるのを抑えなくてはならない。その点においてもパターン認識アルゴリズムの改良により誤認識率を格段に向上させることが出来て、また、バックグラウンドの素性の理解も進んだので、トリガー頻度を落とすための道具立てが揃った。 これらを基にして、つまり、新しいソフトウェアの枠組みで、トリガー頻度を十分下げたうえで、ミューオン検出器やカロリメータ時間情報をもとにしたトラック再構成を行うためのトリガーを開発を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で開発したトリガーアルゴリズムによって取得された2012年データを用いて、時間情報を基に検出粒子の速度を測るアルゴリズムを開発する。 ミューオン検出器での時間情報を用いる場合は、バレル領域では時間測定精度の高い初段トリガー検出器を用いる事ができるが、エンドキャップ領域では初段トリガー検出器での時間情報では不足であるうえ、オフラインでは可能な複数のドリフトチューブを用いて複雑なフィットを行って速度を求める手法も計算時間の制限からは難しく、これまでは単純に運動量による制限を課すだけだった。そこで、まずはバックグラウンドを積極的に抑えるためのパターン認識による制限をかけてトリガー頻度を十分に下げる。そのための選定条件の最適化を行う。その上で、簡潔なフィットアルゴリズムによる速度計算を開発したい。その際には、実データのうち、最内層に飛跡のないバックグラウンドが主に、磁石などとの二次相互作用で生成された速度の遅い陽子であるのでそれを用いて実際に遅い速度でも正しく測れるか、実データで検証しつつ開発する。 また、カロリメータでの時間情報を用いるアルゴリズムも開発する。ミューオン検出器での検出位置から内側へ向かってトラックを伸ばしてカロリメータとの対応を精度よく行って、カロリメータでのパターン認識を効率よく行う。この開発にも実データを用いる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
開発するトリガーアルゴリズムは複雑であり、検出器情報のうち生に近い情報までアクセスするので、開発に際してはミューオンやカロリメータのそれぞれの検出器のエキスパートからの情報収集が必要になる。また、開発するトリガーはオンライン環境で十分テストしなくてはならない。そのため、実験装置のある現地に滞在して開発することが重要になってくる。そのため、研究費の大半は渡航費として充てる予定である。
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