2011 Fiscal Year Research-status Report
高精度電子状態計算を利用した多自由度系の光電子分光とモット転移の研究
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23540359
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
富田 憲一 山形大学, 理学部, 教授 (70290848)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 光物性 / 多自由度 / 電子相関 / 光電子分光 |
Research Abstract |
本研究では、非直交マルチスレーター行列式で多体波動関数を構築する高精度電子状態計算手法(共鳴Hartree-Fock(HF)法)を用いて、電子の持つ電荷やスピン、軌道や格子の自由度が絡み合う物理を量子揺らぎの視点から直観的に理解することに挑戦している。平成23年度においては、日本物理学会誌に共鳴HF法の紹介記事を執筆したほか、以下の2点について研究を行った。I. 幾何学的フラストレーションを伴った強相関系での磁気揺らぎ格子の自由度がもたらす困難の代表例は三角格子に見ることができる。三角格子上の強相関電子系は反強磁性秩序に関して幾何学的フラストレーションを内包しており磁気揺らぎが大きくなる。その結果、磁気秩序を持たない新奇なモット絶縁体が実験・理論両面から指摘されている。本研究では、まず群論を用いて磁気秩序状態を系統的に分類したうえで、共鳴HF法を用いてこうした秩序状態が実現しないのは、(1)各秩序状態が揺らいでいる、(2)複数の秩序状態が競合している、ことに原因がある事を明らかにした。本研究はPhyscal Review Bに掲載された。II. SrVO3の光電子分光理論 SrVO3は3重縮退したt2g軌道に1つのd電子が占有されており、モット転移における軌道自由度の効果を見る上で最適の物質である。平成23年度は、同一格子点の異なる軌道間に働くクーロン相互作用の交換項により、3重縮退した軌道が、エネルギーの低い非縮退軌道と、エネルギーの高い2重縮退した軌道に分裂し、電子は主に低エネルギー軌道の作るバンドに占有されるため、絶縁体に極めて近い金属になることを示した。これまでの計算は平均場近似と共鳴HF法によるものであるが、現在、この結果を、密度汎関数法にexact exhange項を加えた計算で再現できるかを確認している段階である。平成24年度中に論文にすることを目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三角格子上の強相関電子系における磁気揺らぎの視覚化については、極めて順調に成果がまとまり論文掲載まで進んだ。従来の数値計算は、相関関数をはじめとする物理量から状態を推測するしかなかったが、本研究ではスレーター行列式の構造を通して複雑な物性をより直観的に理解できることを示した。大きな磁気揺らぎが磁気的長距離秩序を失わせると言うシナリオを視覚的に表現できたことは大きな成果であると考えている。また、この研究と前後して、日本物理学会誌に共鳴HF法の解説記事を執筆できたことも、研究の成果報告として有意義であった。SrVO3の光電子分光理論に関しては、3重縮退した軌道が、同一格子点の異なる軌道間に働くクーロン相互作用の交換項により、エネルギーの低い非縮退軌道と、エネルギーの高い2重縮退した軌道に分裂し、電子は主に低エネルギー軌道の作るバンドに占有されて絶縁体に極めて近い金属になることを示した。この結果は光電子分光の実験結果と良く合致している。科研費申請時は、本研究の成果を平成23年度中に論文としてまとめる予定であったが、現在、密度汎関数法にexact exhange項を加えた計算を進め、より多方面からの検証を行っている。平成24年度中には論文として成果報告する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
SrVO3の光電子分光理論に関して、密度汎関数法にexact exhange項を加えた計算を進め電子状態および光電子分光における交換項の効果を明らかにし、これまでの研究結果と合わせて論文としてまとめる予定である。VO2は軌道縮退に加え電子-格子相互作用の効果も重要である。実際に、金属相と絶縁相で結晶構造が変わるのだが、この転移は、常磁性-非磁性相転移を伴っており、電子間相互作用に起因するモット転移ではなく、電子-格子相互作用によるパイエルス転移であるという指摘もあり、その詳細は未だ明らかになっていない。このVO2の光電子分光実験は2006年に行われ、やはり単バンドハバードモデルではその構造を説明できないことが指摘されている。平成24年度には、VO2の軌道縮退と電子-格子相互作用、電子間相互作用の関係を量子揺らぎの視点から明確にする。特に、絶縁化の原因が、電子間相互作用か、電子-格子相互作用か、あるいは両者の協力関係か、を明らかにする。これらに加えて、今後、電子格子結合の効果を調べて行く上で、格子の量子揺らぎを取り込んだ電子状態計算が必要となる。従来の理論では、局所的なフォノンを有限個用意して格子揺らぎの効果を取り込む方法が一般的だったが、これでは大きな格子揺らぎを取り込むことができない。本研究では、格子に関するコヒーレント表示を利用して、異なる格子構造を共鳴させることで、大規模格子揺らぎを取り込めるような理論を構築する。本研究は科研費申請時には明記していなかったが、VO2における電子格子相互作用の効果を調べる上でも重要であると考え、平成24年度の研究課題として加えることにした。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
東日本大震災の影響で、特に上半期に予定していた、いくつかの研究打ち合わせや会議出席をキャンセルしたため、旅費に充てていた予算約11万円が次年度使用額として計上されることになった。平成23年度に計算機クラスターを購入したため、平成24年度に物品購入の予定はなく、国内での成果発表や情報交換として20万円程度、国際会議での成果発表及び情報交換として約40万円、専門知識の提供として5万円程度、会議登録費として6万円程度を予定している。
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Research Products
(8 results)