2012 Fiscal Year Research-status Report
高精度電子状態計算を利用した多自由度系の光電子分光とモット転移の研究
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23540359
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
富田 憲一 山形大学, 理学部, 教授 (70290848)
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Keywords | 光電子分光 / 強相関電子系 / モット転移 / 共鳴Hartree-Fock法 |
Research Abstract |
平成24年度は、高温超伝導物質を対象とした2次元強相関電子系の光電子スペクトルにおけるドーピング依存性の解明と、格子を量子化して理論的に扱える手法開発を行った。 まず、2次元強相関電子系の波動関数を、非直交スレーター行列式の重ね合わせで表現し、正孔をドープした時には、反強磁性秩序パラメーターに現れる位相欠陥がキャリアになることを示し、またこうしたキャリア間に引力が作用する可能性を指摘した。こうして得られた波動関数から状態密度を計算し、その勾配からフェルミ面の形状を見積もった。計算結果は光電子分光実験によって得られたフェルミ面のドーピング依存性を良く再現していることが分かった。本研究の成果は、Journal of Physical Society of Japan に掲載されたほか、日本物理学会や国際会議でも報告された。 次にコヒーレント状態表示を用いた格子の量子化を利用し、電子格子結合の強い系の量子論的記述を可能にする手法を開発した。電相関を取り込む理論の開発に比べ、格子を量子化する試みはあまり行われていないが、電子状態と格子構造は密接に関係しており、格子を量子化することは大変重要であると考えている。本年度は1次元系の量子力学的格子揺らぎの効果について研究した。その結果、half-fillingでの格子の揺らぎはあまり重要ではなく、基底状態は強固な結合交代をとるが、電子数を変えると、格子ソリトン的な揺らぎが重要になることが分かった。ここまでの研究成果はJournal of Physics に掲載されたほか、日本物理学会でも報告された。更に、現在までに格子構造を最適化するプログラムも完成し、先入観なしに格子構造を決定できるようになった。今後、電子間相互作用を考慮した系の状態について研究していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、電荷、スピン、格子、軌道といった複数の自由度が絡み合った複雑な系における光学応答の精密な記述を目指している。これらの自由度は、いずれも単独であれば量子的に扱うことに技術的な問題点はないのだが、例えば電子ー格子結合において、電子と格子の両方を量子化して記述することは容易ではなかった。これまでに、私は、この問題を格子のコヒーレント状態表示を用いることで解決し、電子と格子の量子揺らぎを視覚化することに成功している。また、波動関数から、フェルミ面の形状を求める手法も確立し、2次元強相関電子系で実験結果を再現することを示した。これらの成果はいずれも査読付き論文として報告されてるほか、国内外の研究会でも報告している。 また、まだ論文として成果報告していないが、格子構造の最適化プログラムが現在までに完成している。これにより、最適な格子揺らぎの組み合わせを先入観なしに得られることができるようになった。 これらの点を鑑み、現在まではおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、電荷、スピン、格子、軌道といった複数の自由度が結合している系を量子化して扱う理論的手法を開発してきた。また、フェルミ面の形状を求める手法も確立した。今後は、これらの手法を駆使して、低次元電子系のような、電荷、スピン、格子の自由度が強く結合した系の電子状態とフェルミ面形状を解明する。また、遷移金属化合物のフェルミ面についても研究していく。特にVO2における、電子間相互作用と電子格子相互作用の関係について解明していく予定である。更に、Ir酸化物において、5d電子系のIrを4d電子系のRhに置換することは、スピン-軌道相互作用を弱め、電子間相互作用を強めることになると考えられる。このことは、軌道縮退けにおける、スピン-軌道相互作用と電子間相互作用の役割を系統的に理解する上で有効である。共鳴Hartree-Fock法を用いてフェルミエネルギー近傍の電子構造の変化を明らかにし、角度分解光電子分光の実験結果と合わせて、スピン-軌道相互作用と電子間相互作用の役割を明らかにする。 こうした研究に加え、電子相関効果や格子の量子効果を取り込んだ状態密度の解析を行う予定である。状態密度は光電子スペクトルに対応しているが、現状では、密度汎関数法を用いた計算があるだけで、光電子分光の理論的解析は不十分である。私は、共鳴Hartree-Fock法によって得られた波動関数から自然軌道を構築することで、多体効果を取り込んだ一電子軌道と光電子スペクトルの関係を調べていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度に計算機クラスターを購入したため、大規模な物品購入はない予定である。国際会議での成果発表を2,3回予定している。これらの旅費に約90万円、および会議登録料に約20万円を計上している。国内での成果発表や情報交換として約30万円を予定している。
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Research Products
(9 results)