2013 Fiscal Year Research-status Report
高精度電子状態計算を利用した多自由度系の光電子分光とモット転移の研究
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23540359
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
富田 憲一 山形大学, 理学部, 教授 (70290848)
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Keywords | 光電子分光 / 2光子光電子分光 / 多体効果 / 多自由度 |
Research Abstract |
平成25年度は、電子ー格子相互作用が及ぼす多体効果を量子的に記述できる手法を確立し、Su-Schrieffer-Heeger(SSH)型電子格子相互作用を伴った1次元ハバードモデルに適用した。格子は、多くの場合、断熱的、古典的に取り扱われるが、仮に電子間相互作用がないSSHモデルであっても、格子の量子揺らぎを考慮すると厳密に解くことは出来ない。私たちは、格子についても複数の配置を重ね合わせ、揺らぎを取り込むことで、一配置よりもエネルギーが下がることを示した。 ポリアセチレンに代表されるポリマーは、ドーピングと共に伝導性が高まるが、金属化の起源は良く分かっていない。特に、赤外分光の実験結果は、金属状態における格子ひずみの存在を強く示唆している。私は、短距離クーロン相互作用の効果がソリトン形成を抑制するのに対し、長距離クーロン相互作用はソリトン形成を促進することを明らかにした。また、格子構造に対して多配置相関を取り入れることで、ソリトン的な格子と、金属状態が共存する可能性を示唆した。この研究成果は、国際会議Collaborative Conference on Materials Researchにおける招待講演、及び日本物理学会で報告された。 このほか、半導体において光励起された電子がFermi縮退を形成するまでの時間発展理論を構築した。電子間相互作用はエネルギー散逸には寄与しないため、励起された電子は、電子ー格子相互作用を介してフォノンを吐きながらエネルギー緩和していく。私たちは、緩和の初期過程で光学フォノンの寄与が極めて大きいことを明らかにする一方、緩和の最終段階では音響フォノンが主要な役割を果たすことを示した。緩和は10ピコ秒単位の長時間を有することも明らかになった。これらの研究成果は、2014年春の物理学会年会のシンポジウム講演で報告された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複雑な多自由度系の光物性を精度よく記述する手法を開発し、物性の起源を解き明かすことが本研究の目的である。これまでに、複数の非直交な配置を重ね合わせることで、電荷、スピン、格子、軌道の自由度を有する系の多体効果を効率的に記述する手法を確立し 1.フラストレーションのある三角格子上での磁気揺らぎの視覚化 2.2次元ハバードモデルにおけるフェルミ面のドーピング依存性と超伝導起源の提唱 3. コヒーレント状態表示を用いた格子の量子化と電子格子相互作用による多体効果の視覚化 4. Su-Schrieffer-Heeger型電子格子相互作用を伴った1次元ハバードモデルの電子と格子の量子揺らぎの視覚化 5. 多軌道系SrVO3の軌道間交換相互作用によるバンド分裂、 について研究成果を得ている。1~3については既に論文としての成果発表まで終えている。4~5については、現在、更に研究を進めている段階だが、4では、格子の量子揺らぎを取り込むことで、断熱的、古典的に格子を扱ったときよりエネルギーが下がることを明らかにしたほか、短距離クーロン相互作用がソリトン格子の生成を抑制する一方、長距離クーロン相互作用はソリトン格子の生成を促進することも明らかにした。5.については、軌道間に働くクーロン相互作用の交換項が3重縮退した軌道を分裂させ、角度分解光電子分光の実験結果を再現するような3つのバンドを構成することを提唱している。これらの研究に加え、2光子光電子分光を介した、光励起状態からのフェルミ縮退形成ダイナミクスを計算する研究へ発展も見せている。平成25年度は、前年度3本の論文発表を行ったこともあり、論文としての成果発表がなかった点はマイナス材料だが、国際会議での招待講演や日本物理学会でのシンポジウム講演による成果発表を行っている。これらの点を鑑み、現在までは概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、複雑な多自由度系の光学応答を高精度に計算し、かつ、物理描像を明確に提示することである。これまでに、多自由度系の多体効果を複数の非直交配置の重ね合わせで記述する手法と、それを利用したフェルミ面形状の導出方法を確立してきた。今後は、電荷、スピン、格子が強く結合した低次元系の電子状態とフェルミ面形状の関係について研究を進めていく。電子-格子相互作用に起因する光学応答への影響は、スペクトル形状論として、フォノンの出し入れに伴うサイドバンドなどが議論されることが多い。私は、本研究を通して、例えばソリトン格子のような、より大きな格子の量子効果が光学応答に及ぼす影響を明らかにする。重ね合わせる配置を解析しながら光学スペクトルの形状を調べていくことで、電子状態とスペクトル形状を結び付けて理解することが可能になるはずである。特に、一体近似や断熱近似では、ソリトンのような欠陥がキャリアに見えるポリマーにおいて、格子の量子揺らぎを考慮することで、従来型の金属が実現する可能性について考察したい。ポリマーにおいては、赤外分光から金属状態においても格子ひずみが残っていることが示唆されており、理論と実験が整合しない重大な問題点になっている。このほか、VO2における電子間相互作用と電子格子相互作用の関係についても明らかにする。 最終年度でもあり、これまでに既にいくつかの研究成果を得ている。これらの成果の中でまだ論文発表していないものをまとめ、査読付き論文として成果報告する。また、日本物理学会を初めとする国内外の会議での成果報告を行う。現在既に6月の国際会議で招待講演を予定している。このほか、同じく6月には、山形大学理学部公開講座での講演があり、研究成果を市民に説明する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は学科長としての業務が想定外に多く(多数の人事や建物火災の事後処理など)当初予定していた研究打ち合わせや国内外の会議参加をキャンセルせざるを得ないことがあり、無理に予算を消化するより次年度に有効利用することにしました。 国際会議を3回予定。その登録料として約20万円程度、旅費として80万円程度を計上している。国内での成果発表も3回程度、その旅費として25万円程度計上する。研究打ち合わせは2回程度で12万円計上する。図形解析ソフトオリジンの購入費用として15万円を計上する。プレゼンテーション用のラップトップPCもしくはタブレットPCを購入予定で、VGAアダプターなどの周辺機器と合わせて15万円を計上する。論文の掲載及び別刷り料金として15万円程度計上する。
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