2011 Fiscal Year Research-status Report
フェムト秒時間分解光電子分光法による半導体価電子正孔系の超高速動力学
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23540366
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
金崎 順一 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (80204535)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 慎一郎 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (00227141)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 半導体 / キャリア動力学 / 時間分解光電子分光 / グラファイト / 正孔 / 励起電子 / フェムト秒レーザー |
Research Abstract |
初年度においては、時間分解光電子分光の手法を用い、シリコン、化合物半導体及びグラファイトにおける光励起キャリアの動的挙動を解明するための研究を推進し、光励起キャリアの超高速現象に関する基本的な知見を得た。(I)励起電子動力学に関して多くの基礎的知見が蓄積されているSi(111)7x7について、光励起 (2.21eV)により生成される価電子正孔系の超高速緩和過程をフェムト秒時間領域で実時間追跡し、非平衡正孔系の動的特性の解明を進めた。得られた成果を以下にまとめる。1)光生成正孔のエネルギー分布に関する時間発展測定により、価電子正孔系は励起後数ピコ秒以内に非平衡状態から準平衡状態に達する事、2) エネルギーと運動量で特徴付けられるバルク価電子状態における正孔密度の時間発展は、(1)励起後急速に生成され、その後450fsecの時定数で減少する成分と、(2)450fsecの時定数で増大する成分を含む事、3) 正孔密度の時間発展を特徴づける時定数は温度の上昇に伴い早くなる事、を明らかにした。実験結果を解析することにより、非平衡正孔系が準平衡分布へ変化する過程は、1psec以内に進行し、その動的過程には正孔-フォノン散乱が重要な役割を果たす事が判明した。(II)2光子光電子分光の手法を用い、ガリウム砒素について、光励起による伝導帯励起電子系の超高速緩和動力学を解明する研究を推進した。伝導帯からの光電子強度分布イメージの時間発展をエネルギー及び放出角の2次元空間において観測し、エネルギー-運動量空間における励起電子波束の超高速緩和過程の様子をフェムト秒の時間領域で実時間追跡することに成功した。 分担者田中は、グラファイトの高分解能角度分解光電子分光実験を行い、30K以下で可逆的に形成される超構造を初めて見出した。さらに、詳細な温度依存性の測定から、この構造が電荷密度波転移に起因する事を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
代表者(金崎)は、初年度の計画であったSi(111)7x7表面における正孔の超高速動力学の解明について、励起直後における非平衡分布から準平衡分布へと至る正孔のエネルギー分布の時間発展やその素過程に関する知見を得ることに成功した。これまで、正孔の超高速緩和動力学に関する直接的な知見を得た例は世界的にもなく、本成果は半導体キャリアの超高速現象のみならず、光生成正孔が誘起する諸現象の理解を大きく前進させるものである。したがって、本成果は当初初年度の目的として設定した内容を充分達成しているものと評価している。 化合物半導体における光生成キャリアの超高速動力学に関する研究については次年度に予定していたが、伝導帯における励起電子の動力学に関する研究計画の一部を初年度から開始した。本研究により、バルク励起電子波束の緩和過程をエネルギー・運動量空間において実時間追跡することに世界で初めて成功し、2光子光電子分光の手法により、半導体における励起電子の超高速現象に関する直接的かつ重要な知見を得ることが可能であることを示した。正孔の超高速動力学を解明する上で励起電子に関する情報は必須であり、本研究をさらに展開することにより、次年度以降の研究を円滑に進めることが可能となる。 当初、初年度の実施計画には酸化チタン試料表面の清浄化条件の最適化をあげていたが、実験装置の不具合によりこの項目のみ達成できなかった。現状、本装置は正常な動作状態に回復しており、本研究項目の推進に問題はない。 分担者(田中)は、光電子分光による詳細な研究により、グラファイトにおける新たな電子物性を発見した。これは、当初予想していなかった結果であり、今後の展開が期待できる重要な成果であると評価できる。 以上の成果を考慮し、初年度の目的は達成され、さらに新たな展開を期待できる点を鑑み、当初の計画以上に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
代表者(金崎)は初年度において得られた正孔動力学の実験結果を理論的考察も含めて検討し、シリコンにおける非平衡価電子正孔系の超高速緩和過程を支配する素過程を解明する。さらに、2光子光電子分光測定がエネルギー・運動量空間におけるバルク励起電子波束の実時間追跡に有力であるという初年度の結論を更に発展させ、励起光の条件(光子エネルギー、強度、偏光方向)や試料温度・試料方位に依存する励起電子の緩和過程の変化を明確にし、その特徴とバンド構造をはじめとする電子物性との相関を明らかにする。特に、直接遷移型半導体の代表であるガリウムヒ素を試料として用い、伝導帯下端近傍に制御して発生させた励起電子のエネルギー分布を時間追跡することにより、半導体における励起電子の緩和過程を支配する素過程を解明する。これと並行して、フェムト秒時間分解1光子光電子分光の手法を用い、同一励起条件・試料条件におけるバルク価電子帯正孔系の超高速緩和動力学を同じ時間領域で測定し、伝導帯励起電子と価電子帯正孔の超高速動力学を相関付け、両現象の統一的理解を獲得する。 さらに、光触媒性とキャリア動力学との相関を明らかにするため、酸化物半導体を研究対象とする計画である。光電子分光測定システムとは独立した超高真空排気システムにおいて、種々の表面処理条件において作成した酸化物半導体(二酸化チタン)表面をトンネル顕微鏡により直接観察し、良質な表面を作成するための清浄化条件を最適化する研究を進める。次年度終了までに、最適な酸化物表面清浄化を可能とする排気・輸送機構を新たに設計・構築した上、本装置を光電子分光測定用超高真空排気システムに組み込む。分担者(田中)は、分子科学研究所におけるUV-SOR施設を利用し、引き続きグラファイト表面における新規の電子物性の探索と光生成キャリアの動力学に関する研究を光電子分光測定により展開する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初、初年度において光電子分光測定と並行して、酸化物半導体表面の清浄化条件を最適化する研究をトンネル顕微鏡を備えた独立の超高真空排気システムにおいて推進する予定であった。しかしながら、清浄化用超高真空排気システムに設置されている排気ポンプの故障により、真空排気システムのオイル汚染が発生し、一部装置の交換やオイル除染作業が必要となった。現状、清浄化用超高真空排気装置は正常な動作状態に回復しているが、酸化物半導体の清浄化に関する研究は数か月にわたって中断せざるを得ない状況となり、初年度において実施することを断念せざるを得なくなった。研究の効率的推進のため、2光子光電子分光法を用いた化合物半導体における励起電子の超高速動力学の研究を優先して推進し、酸化物表面清浄化条件の最適化を次年度に開始することとした。収支状況報告書における次年度使用額に相当する研究費は、酸化物半導体試料購入、清浄化に必要となる酸素ガス及びその導入ラインの構築費に相当する。当該研究費は、次年度において上記物品の購入費に充てる予定である。 さらに、次年度において光電子分光測定システムへ酸化物試料清浄化システムを新たに設置し、酸化物半導体試料の光電子分光測定を可能とする計画である。この試料清浄化システムは、真空排気用ミニチェンバー、排気ポンプ、試料保持輸送機構などから構成されており、ミニチェンバー製作費と上記物品の購入費を次年度に計上する。 光電子分光測定に関しては初年度から開始しており、必要な主要物品は既に調達している。そのため、真空部品及び光学部品等の消耗品のみを新たに計上する。これに加えて画像解析用コンピューターとソフトウェアを計上し、測定した光電子イメージの画像解析を効率的かつ効果的に行う計画である。さらに、研究調査及び成果発表を目的とする国内、国外旅費、論文投稿料等を次年度予算として計上する。
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Research Products
(17 results)