2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23540370
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
星 健夫 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80272384)
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Keywords | 超大規模電子状態計算 / オーダーN法 / ナノ複合カーボン / アモルファス状有機EL高分子固体 / 京コンピュータ / 第一原理 |
Research Abstract |
10ナノメートル系のナノ構造プロセスの理解に必須である、第一原理に基づいた大規模計算手法を実現する研究に取り組んでいる。プログラムコードはELSESの名前がつけられ、企業研究者なども含めて利用されている(http://www.elses.jp/)。具体的には、クリロフ部分空間に基づく数理アルゴリズムを基盤とし、第一原理にもとづくモデル化(タイトバインディング型)システムを用いている。数理手法は汎用のため、金属系・半導体系など、幅広い系に適用できる。本年度は、「京」コンピュータでの超並列計算を中心として、分散メモリ型プログラムコードの開発と、応用計算にとりくんだ。応用例としては、次世代ディスプレーなどの基礎材料である有機EL型アモルファス状共役高分子(ポリ-(9,9ジオクティルフルオレン))および、次世代長強度材料(ナノ多結晶ダイアモンド)研究の基礎であるsp2(グラファイト型)-sp3(ダイアモンド型)ナノ複合カーボン固体、である。1000万原子系での、10万コアまでの並列効率(ストロングスケーリング)αは、前者でα=0.79、後者でα=0.95、であった。予想以上の並列効率が高く、今後の超並列計算での利用が期待できるものである。前者については、第一原理計算コード(Gaussian09)をもちいた高精度計算を、小規模系でおこない、電子物性に重要なチルト角(隣接するベンゼン環の2面体角)など、よい一致をみた。また、ELSESの産業利用を目的とした、イオン液体系の研究も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
新たに提案した数理アルゴリズム(多重アーノルディ法)が超並列計算に非常に適しており、「京」コンピュータでの並列性能が予想以上に高かった。これは研究立案当初には考えらなかったことであり、当初計画以上の成果があがっていると言える。また、第一原理にもとづくモデル化手法も、第一原理計算コード(Gaussian09)との一致も十分であり、この点も当初目的に合致している。モデル化はパラメーター設定が必要になるが、テストを行った範囲では、類似物質間での汎用性(transferablity)が確認され、広い範囲での物質に適用できることを示している。具体的には、ベンゼンなどの基礎物質において第一原理計算を参照してモデル化を行うと、共役高分子(ポリ-(9,9ジオクティルフルオレン))での構造も良く再現していた。最適化手法については、本年度計画にもあるとおり、(理論やスパコンに明るくない)一般研究者が使えるための技術を開発中であり、この点でも見通しは明るい。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究計画を述べる。「京」コンピュータの10万コア利用の計算では大きな成功をおさめたが、物性物理学の発展のためには、より小型の(10~1000コア程度の)計算機での活用も重要であり、このような計算機環境での利用手法を開発する。特に、現在の計算では、高速計算のためには種々のパラメーターを手動で設定する必要があり、多くの(理論やスパコンに明るくない)一般研究者が使うには困難である。そのための利用技術開発が必要である。オーダーN法(原子数Nの1乗に比例する計算)とオーダーN**2法(原子数Nの2乗に比例する計算)を複合させた手法が、大きなポイントであると予想する。後者は、領域分割のさいの帳簿作成アルゴリズムなどに用いる。10万原子、1000コア程度の計算機環境では、この手法でも厳密なオーダーN法とほとんど変わらないものと期待し、これに取り組む。誰にでも使えることを目的とするには、入力ファイルも汎用性が必要である。本研究では、汎用な情報技術であるXML形式ファイルに着目し、すべてをXMLファイルだけで処理できるように、していく予定である。XMLファイルは、拡張性をもっており、上記目的には最も適しているが、同時にユーザーが下記間違った際のエラーチェックが困難である点が問題になる。エラーチェック機能を強化する、など、ソフトウェアとしての完成度を高めていくことで、結果的に物性物理への寄与ができるものと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初は2012年開催の国際会議(注1)に参加予定だったが、その後、研究成果アピールにより適している国際会議2つ(注2)(注3)が2013年度に開催されると分かり、切り替えたため。 (注1) Material Research Society Fall Meeting, ボストン, 米国, 2012年11月25-30日。(注2) The 9th East Asia SIAM Conference The 2nd Conference on Industrial and Applied Mathematics, バンドン, インドネシア, 2013年6月18-20日。(注3) The 12th Asia Pacific Physics Conference, 幕張メッセ(千葉), 2013年7月14-29日。
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