2011 Fiscal Year Research-status Report
量子ドット・ナノ物質系における強相関電子による量子輸送の理論的研究
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23540375
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
小栗 章 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10204166)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 近藤効果 / 強相関電子系 / 量子ドット / 非平衡電流 / 電流ノイズ / 超伝導 / 国際情報交流 / イギリス |
Research Abstract |
本研究の目的は、クラフェンやナノチューブなどのカーボン系や、単一分子レベルのエレクトロニクスとも関連する広がりを見せている量子ドットやナノ物質系における、電子相関の効果を明らかにすることにある。特に、多重量子ドットや複数の軌道を持つ系の近藤効果と非平衡量子輸送現象、および超伝導体と接続された量子ドット系におけるクーパー対と磁性の競合の詳細について調べている。今年度の実績の概要は次の通りである。(1) SU(N)対称性を持つAnderson模型にもとづき、軌道縮退のある量子ドット系の完全計数統計の定式化を用いて調べた。特に、電子正孔対称性がある場合における、高次の電流相関を含むキュムラント生成母関数の低エネルギ―極限で厳密な解析的表式をくりこまれた摂動論(RPT)を用い導出した。さらに、数値くりこみ群(NRG)を用い、生成母関数の係数の電子間斥力Uに対する依存性を弱相関から強相関の極限まで明らかにした。(2) 数値くりこみ群などが適用できない軌道縮退数Nが大きな場合からの解析的なアプローチとして1/(N-1)を展開パラメータとする摂動が有効であることを明らかにした。この方法は、従来の1/N展開やNon-crossing近似(NCA)とは異なる新しい展開法である。我々は、電子正孔対称な場合のみならず非対称への拡張も行った。その結果、1/(N-1)の2次までの展開が、N=4以上の場合には、電子間斥力Uの弱相関から中間的な相関領域まで、有効であることを明らかにした。(3) 超伝導体との接合系に関する研究では、2本の超伝導リードと1本の常伝道リードからなる3端子に接続された単一量子ドット、および3角形3重量子ドットの研究を進めた。低エネルギー状態はクーロン相互作用するBogoliubov粒子系の局所Fermi流体的振る舞いをNRGを用いて詳細に調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は、特に軌道縮退のある量子ドットの非平衡近藤効果を完全計数統計の観点から定式化は、輸送特性のより系統的かつ広範囲な対象への研究に進展中である。特に、クーロン積分を通した電子間相互作用に加え、交換相互作用に起因する強磁性的なHund結合が大きな系の電流揺らぎの計算を精力的に進めている。 この研究の流れから、1/(N-1)展開という思わぬ方向への興味深い発展があった。従来のNCA法が混成行列要素vの展開に基礎を置くのと異なり、我々の1/(N-1)は有限な大きさのクーロン相互作用Uの摂動論に基礎を低エネルギーの領域に適用可能である。我々は、この手法に基づき局所Fermi流体状態を特徴づけるWilson比、波動関数くりこみ因子等を計算し、N=4の場合の数値くりこみ群の結果と比較した。Nがそれほど大きくないにも関わらず、両者は非常によく一致し、この展開法の有効性を示すことができた。この手法は、量子不純物のみならず周期格子上の系や、Keldyshの非平衡Green関数に適用することが可能であり、特に動的相関関数について計算を進めている。 また、今年度、超伝導体に接合された量子ドットの研究も着実に進展している。Andreev散乱を起こす単一量子ドット系に関しては、数値くりこみ群を用いた具体的な計算に加え、低エネルギーの性質がクーロン相互作用するBogoliubov粒子系の局所Fermi流体論として、統一的記述されることの微視的な定式化に進展があり、論文を準備中ある。さらに超伝導リードに接続された、3角形3重量子ドット系のAndreev散乱、およびJosephson電流の数値くりこみ群の計算機コードも完成し、秋と春の日本物理学会で結果を発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は『研究実績の概要』に記した3項目を、さらに発展させる方向で研究を進める。 軌道縮退のある量子ドットの非平衡近藤効果、およびその輸送特性の研究に関しては、Fermi流体領域の研究をさらに発展させる。また、軌道間に直接クーロン相互作用に加え、反磁性的交換相互作用がある場合には、量子相転移が起こる場合があり、転移点上では非Fermi流体的な振る舞いが現れることがある。今後はこのような軌道縮退のある系の量子相転移、および非Fermi流体状態の非平量子輸送特性等にも視野に入れた発展も検討したい。 また、我々が提唱した1/(N-1)展開法は、量子ドット系の非平衡状態の理論計算に拡張可能であることに加え、Hubbard模型等の周期格子上の系へも適用可能である。特に、動的平均場理論との組み合わせにより、軌道縮退のあるバルクの強相関電子系の金属絶縁体の研究にも応用できる。今後はこれらの方向への発展も検討する。超伝導体との接合系では、超伝導リード間のJosephson位相により、Fermi流体状態を特徴づけるパラメータをが変化し、局所クーパー対が支配的な弱相関領域から、近藤シングレットが支配的な強相関領域へのクロスオーバーが起こることを、これまでに示してきているが、今後さらにその詳細を数値くりこみ群により調べる。3角形3重量子ドットの場合には、長岡強磁性機構に基づくS=1の高スピン状態と局所クーパー対、およびKondo効果の競合に関する研究をさらに進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度(H23年度)は、科研費で購入予定であった計算機サーバーを別な予算で購入することができたたこと、当初の予定より旅費・学会参加費が多く必要であったことにより、30万円程度、次年度(H24年度)へ繰り越しになった。 H24年度の研究費の主たる部分は、研究発表、および研究連絡に必要な旅費に充てる予定である。現在のところ、国内学会(2件)、および海外で行われる国際学会(3件)を計画しており、参加費、および旅費を科研費から支出する。さらに、研究協力者である阪野塁氏(東大)との研究連絡のため、同氏の大阪市立大学への出張に関する支出も予定している。昨年度は、メールや電話に加え実際に会って研究上の議論をしたことが、研究の進展に非常に有用であった。また、研究室所属の新大学院生も研究の一端を担うに必要な知識をつけ身に着けつつあり、今年度途中からは数値解析のデータ解析等の研究補助、および学会発表を行うことを見込んでいる。そのため、謝金等の経費を研究費から支出する。 物品費は、主として本研究で使用している計算機サーバー、およびパソコン関連で、ハードディスクやメモリの増設などの周辺機器等に用いることを考えている。また、その他として、ソフトウェアの更新版の購入や、論文印刷費などが必要な場合、研究費から支出を予定している。
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Research Products
(12 results)