2012 Fiscal Year Research-status Report
量子ドット・ナノ物質系における強相関電子による量子輸送の理論的研究
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23540375
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
小栗 章 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10204166)
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Keywords | 近藤効果 / 強相関電子系 / 量子ドット / 非平衡電流 / 電流ノイズ / 超伝導 / 国際情報交換 / アメリカ合衆国 |
Research Abstract |
課題研究の2年目の年にあたり、ひき続き研究目的である量子ドットやナノ物質系における、電子相関の効果を明らかにすべく研究を進めた。特に、多重量子ドットや複数の軌道を持つ系の近藤効果と非平衡量子輸送現象、および超伝導体と量子ドットを接合した系におけるクーパー対と磁性の競合について調べた。今年度の実績の概要は次の通りである。 試料に印加した電圧の大きさが線形応答を超える領域で、定常電流の揺らぎとして観測されるショットノイズには、重要な物理的情報が含まれている。我々は、近藤効果を示す量子ドット系のショットノイズにおける軌道縮退の効果を微視的Fermi流体論と数値くりこみ群を組み合わせたアプローチを用い系統的に調べている。特に今年度は、軌道間に強磁性的交換相互作用であるHundが強く働く場合には、縮退度が大きな場合にも電子相関の効果が強く残り、ショットノイズを特徴づけるファノ因子が増強されることを示した。さらに、Anderson模型に基づき、近藤効果が非平衡電流揺らぎに与える影響を、クーロン斥力とHund結合からなるパラメータ空間の広範囲の振る舞いを定量的に明らかにした。軌道縮退数Nが大きな場合には数値くりこみ群は適用できないが、我々は前年度から開発を続けている1/(N-1)展開法の非平衡状態への拡張を行い、低エネルギー領域における完全計数統計のキュムラント生成母関数の解析的アプローチによる解析を可能にした。 また、2重量子ドット系における多様な近藤効果のクロスオーバーについてもこれまでに得た結果を総合的にまとめ論文発表した。さらに量子ドットに2本の超伝導リードと1本の常伝導リードを接続した3端子系では、近藤効果、Andreev散乱。Josephson効果の競合が量子干渉効果を通して見られるが、その詳細について論文発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度、近藤効果を示す量子ドット系のショットノイズにおける軌道縮退とHund結合の影響に関する我々の研究はPhysical Review Letter誌に掲載され高い評価が得られた。我々は、この微視的Fermi流体論と数値くりこみ群を用いたアプローチによる研究をさらに着々と進めており、磁気異方性の効果などに関して未公表な結果が今年度も順調に蓄積されている。 解析的なアプローチとして進めている1/(N-1)展開を用いた解析では、低エネルギ―Fermi流体領域の完全計数統計のキュムラント生成ボ関数の導出を行い、論文は投稿中である。動的な相関関数の計算も進行中であり、明確な発展方向を持った中で着実な理論解析の積み重が得られている。2012年9月にウズベキスタンで開催されたNATOのワークショップでは、この研究に関する招待講演を行った。 超伝導-量子ドット接合3端子系の研究に関しては、我々のこれまでの研究を総括する形で、超伝導体中における電子相関の効果が相互作用するBogoliubov準粒子集団の局所Fermi流体として定式化した。この方法は実用的にも非常に有効であり、我々は低エネルギー量子状態を特徴づけるくりこまれたパラメータを計算し、量子干渉、近藤効果、Josephson位相、Andreev散乱が互いに絡み合う複雑な現象の解析を詳細に行い、論文発表した。 我々の研究目標のひとつに、低エネルギーFermi流体領域外の中間から高エネルギー領域で適用可能な理論の構築がある。今年度、我々は高エネルギーの極限で、Anderson模型の相関関数が相互作用のある場合にも厳密に得られることを見出し、この方向の理論解析も進め論文もほぼ完成している。
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Strategy for Future Research Activity |
近藤効果を示す量子ドット系のショットノイズにおける研究では、まずひとつの方向として軌道数Nが4以下の場合に対しては、微視的Fermi流体論と数値くりこみ群を用いたアプローチによる研究を進め、磁気異方性の効果等の理論解析を進める。また、Nが4を超える場合に対しては1/(N-1)展開による解析の拡張を行う。 我々は、1/(N-1)展開を用いた動的相関関数の理論計算も進める。まず電子正孔対称のあるhalf-filledの場合におけるGreen関数のω依存性から調べ、さらに軌道の占有数がずれた非対称な場合におけるGreen関数の解析を行う。また、1/(N-1)展開法を用いたKeldyshの非平衡Green関数の直接計算を実行し、非平衡電流、およびショットノイズの中間エネルギ―状態における振る舞いを調べることも予定している。 これらと並行した別のアプローチとして、Anderson模型に基づく高バイアス極限からの展開理論も有効であることを我々は見出し学会発表を行っている。この方向のさらなる発展を検討する。 また超伝導接合系に関しても研究を進める予定である。これまでに3角形3重量子ドットに超伝導リードと常伝導リード接合した系における長岡強磁性機構に基づくS=1の高スピン状態と局所クーパー対、およびKondo効果の競合に関する研究の蓄積がある。広いパラメータ空間を持つ系であり、総括する観点から問題を整理し解析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本課題研究の初年度(H23年度)に科研費で購入予定であった計算機サーバーが別な予算で購入することができた等の事情のため物品費の支出が減り、H25年度へは20万円程度の繰り越しになった。本研究は理論研究のため、研究動向の調査、研究の連絡のための旅費・学会参加費が、研究を円滑かつ将来を見通した観点を持って進めるうえで必要であり、非常に有意義である。そのため、次年度も研究費の主たる部分は、研究発表、および研究連絡に必要な旅費に充てる予定である。 特に、国内学会(2件)、および国際会議(2件)への出張を計画しており、参加費、および旅費を科研費から支出する。さらに、研究協力者との研究連絡のための出張費、謝金に関する支出も予定している。電話や電子メールで連絡できる連絡に加え、実際に会って研究打ち合わせすることが非常に重要で有用であり、実際そのような機会を通し、新しいアイディアが生まれてきている。また、当研究室所属の大学院生も研究の一端を担い、数値解析のデータ解析等の研究補助、および学会発表を行う予定である。そのために謝金等の経費を研究費から支出する。物品費は、必要に応じて研究に使用している計算機サーバー、およびパソコンの周辺機器等に用いる。また、その他として、ソフトウェアの更新版の購入や、論文印刷費などが必要な場合、研究費から支出する。
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Research Products
(12 results)