2012 Fiscal Year Research-status Report
希土類硫化物における多数の準安定磁気構造に起因する巨大物性応答とその外場制御
Project/Area Number |
23540384
|
Research Institution | Muroran Institute of Technology |
Principal Investigator |
戎 修二 室蘭工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10250523)
|
Keywords | 希土類硫化物 / 単結晶 / 磁気相転移 / 異常磁気伝導 / 磁場中比熱 / ゼーベック係数 / 磁気冷却効果 / 巨大磁気ヒステリシス |
Research Abstract |
1.新単結晶育成法検討―硫黄と同族のセレンを化合させた希土類セレン化物の単結晶育成についてフラックス法で成功し、この手法の硫化物への適用を検討している。 2.基礎物性精査―(1)磁場中比熱測定:α-R2S3(R=Tb,Dy)の磁場中比熱を前年より詳細に測定し、次の知見を得た。Tb系:H//bでのTN1およびH⊥bでのTN2における磁気転移は、それぞれ磁場が2Tおよび2.5Tでほとんど消失する。Dy系:H⊥bで1Tの磁場を印加した場合に、TN2より低温の1K付近で新たに1次転移によると思われるピークが観測される。これは2Tの磁場中では見られず、新たな謎として今後の研究課題となり得る成果である。H⊥bのときTN1の転移は高温側にシフトするが、5Tの下では11.4Kから14.6Kと3K以上も高温化し、当該温度・磁場において約5Kの磁気冷却効果を有する。H//bのとき、3T以上の磁場でTN1の転移は不明確となる。また、以上の結果を磁気相図としてまとめた。(2)輸送特性:α-R2S3(R=Gd,Tb,Dy)焼結体試料を用いてゼーベック係数Sの測定を行い、次の知見を得た。全系で温度低下によりSの絶対値はほぼ線形的に小さくなり、磁気転移点より高温の20K付近から急速に正キャリアの寄与が強まる。これより高温でSの符号はGd系:負、Tb,Dy系:正であり、Gd系は低温で符号が正に反転する。α-Tb2S3では単結晶でもSの測定に成功し、焼結体とは異なる符号、温度依存性を観測し、単結晶を用いた系統的研究の必要性が再認識された。 3.巨大物性応答制御―18Tの強磁場中冷却により発現したα-Dy2S3における巨大磁気ヒステリシスを、7Tの磁場中冷却でも再現・制御することを試みている。特定方向に7Tの磁場を印加して冷却すると磁化に異常が現れることを見出し、これが関与すると考えて継続調査中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ブリッジマン法による単結晶育成は、育成雰囲気をどのようにするかという段階でまだ進展が無いが、代わりにフラックス法による単結晶育成について検討を始めた。 磁化と比熱測定により、磁気相図の概略が得られ、今後は不明確な部分を詰めて行けばよい段階にある。 ゼーベック係数に関して、焼結体においては3硫化物について調べることができ、単結晶についても測定ノウハウを培ったので、今後行うことが可能であると考えている。 巨大物性応答の制御については、巨大ヒステリシス発現の鍵となる磁場中冷却時の磁化のジャンプが7Tの磁場中でもその印加方向によっては観測することができ、今後の実験結果に期待が持てる。 複合希土類硫化物については、GdとDyの複合系について単結晶育成に成功している。X線回折や磁化測定結果から判断すると、二種のサイトの選択占有は起こっていないと考えられる。しかしDyを含む系であることから、この伝導については興味が持たれ、今後測定予定の電気抵抗率から磁気相転移と伝導異常の関連性が明らかになるものと期待される。さらに、他の複合系についても単結晶育成の準備が進んでおり、今後系統的に測定予定の磁化、電気抵抗率の実験結果から異常磁気伝導の制御可能性を探ることができると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
フラックス法による単結晶育成が、硫化物にも適用が可能であるかどうか試験する。 磁気相図の不明確な部分を磁化と比熱から明らかにし、磁気相図を詳細なものにする。 単結晶を用いたゼーベック係数を系統的に測定する。また、単結晶でのホール係数測定が可能となるように、大きな単結晶育成を目指す。 α-Dy2S3あるいはα-Sm2S3において、7Tの磁場中冷却で巨大磁気ヒステリシスを再現し、その発現やヒステリシス幅を制御することを試みる。 複合希土類硫化物の単結晶を系統的に育成して基礎マクロ物性を詳細に測定し、磁化や電気抵抗あるいは比熱の巨大応答制御の可能性を探る。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
単結晶試料合成用に、透明石英管および原料試薬の購入に使用する。前年度未使用額は、希土類化合物原料試薬の最近の高騰分に充てる。
|