2011 Fiscal Year Research-status Report
スピンギャップが観測されているスピン1/2カゴメ格子系の理論的研究
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23540395
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
福元 好志 東京理科大学, 理工学部, 准教授 (00318213)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | フラストレーション / ハイゼンベルグ反強磁性体 / ジャロシンスキー-守谷相互作用 / カゴメ格子 / スピンボール / スピンギャップ / 帯磁率 / フェリ磁性 |
Research Abstract |
1. スピンボールの研究についてS=1/2のスピンボールMo72V30が数年前に合成され,カゴメ格子との類似性からRVB状態の実現可能性に興味が持たれていた。しかし,Mo72V30のスピンギャップは,理想的なスピンボール(対称性Ih)の計算結果と比べ非常に小さい。Mo72V30の対称性は厳密にはIhではくD5hであり,空間的歪みを含んでいる。この歪みを考慮した模型に対して基底状態相図を作成し,歪みはフェリ磁性相を安定化することを見出した。Mo72V30の基底状態は非磁性であるが,それは相図中,フェリ磁性相に近接した位置にあり,その結果スピンギャップが小さくなっていると解釈できる。更に,帯磁率の実験データを定量的に再現する相互作用パラメータを見出した。2. フッ化ルビジウム銅スズの研究についてこの化合物は歪んだカゴメ格子系を形成し,スピンギャップを持っている。低温において帯磁率測定で異方性が見られており,c軸方向磁場での帯磁率(以下,平行成分)は低温でほぼゼロとなるが,ab面内磁場の帯磁率(以下,垂直成分)は有限に残る。この原因として,DM相互作用とスタッガードゼーマン項が考えられる。本研究では,DM相互作用を考慮し,級数展開法で絶対零度帯磁率を計算した。ただし,交換相互作用とDMベクトルのc軸方向成分は中性子散乱実験の解析で得られているものを用いた(この解析ではDMベクトルのab面内成分は不定)。まず,帯磁率の垂直成分はDMベクトルのab面内成分の強さにはあまり依存しないこと,帯磁率の平行成分が垂直成分と比べ小さくなるためには,DMベクトルのab面内成分がc軸方向成分の半分ないしはそれ以下でなくてはならないことがわかった。更に,帯磁率の垂直成分の計算値と実験値と比較したところ,前者は後者の約2倍となっていた。これはスタッガードゼーマン項の重要性を示唆するものと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スピンボールの実験系としてMo72V30とW72V30の2つがあるが,今年度は前者に取り組み,Mo72V30の小さなスピンギャップに対する物理的描像構築とモデルパラメータの特定に成功した。これは当初の予想よりも速い進展であった。その背景として,近年,フラストレーションとフェリ磁性の関連に興味が持たれており,カゴメ格子系で空間異方性の研究に進展があったことが挙げられ,本研究はそこからヒントを得ている。フッ化ルビジウム銅スズについて,DM相互作用と絶対零度帯磁率の関係の研究はおおむね予想していた進捗状況であった。ただし,帯磁率の実験結果の再現には至っておらず,スタッガードゼーマン項を取り入れる必要性が認識されるにとどまっている。絶対零度帯磁率の研究は次年度も継続させる必要がある。その他,今年度の計画ではデルタ鎖を含む1次元フラストレートXXZ模型の熱力学特性の密度行列繰り込み群による研究も予定していたが,現状,プログラム開発の段階にとどまっており,やや遅れている。しかし,次年度は物理的内容の考察に到達できる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
スピンボールについて,空間的異方性で誘起されるフェリ磁性相の物理的イメージを描くため,スピン相関の計算や古典スピン配列の探索を行う予定である。フェリ磁性相自体の研究は当初の計画にはなかったが,フラストレーションとフェリ磁性の関連という理論的観点から,また,Mo72V30はスピンギャップが小さく,加圧によってフェリ磁性相へ量子相転移起こす可能性があることからも非常に興味深い。その一方,より歪みの小さいと期待されるW72V30をターゲットに,スピンボール上でのRVB状態の研究にも取り組んでいく。最近接のシングレットダイマーカバーで張られる空間での変分計算を行い,数値対角化による厳密な結果をどの程度再現するのか調べることを計画している。フッ化ルビジウム銅スズについては,スタッガードゼーマン項を取り入れた絶対零度帯磁率の計算を行い,その項が帯磁率の垂直成分をどの程度抑制するのかを調べて行く。また最近,有限磁場下での物性測定が行われつつあるので,その状況に見つつ必要な計算があれば実行していきたい。その他,デルタ鎖を含む1次元フラストレート格子(asymmetric railroad-trestle格子)上のXXZ模型の比熱を密度行列繰り込み群で求め,降温に伴うエントロピー開放の機構について議論していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
6月にカナダで行われるHighly Frustrated Magnetism 2012において,研究代表者および研究協力者(博士後期課程の大学院生)が本年度得た結果を発表する。そのための渡航費用が,次年度研究費の使途の中心となる。
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Research Products
(1 results)