2012 Fiscal Year Research-status Report
スピンギャップが観測されているスピン1/2カゴメ格子系の理論的研究
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23540395
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
福元 好志 東京理科大学, 理工学部, 准教授 (00318213)
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Keywords | フラストレーション / ハイゼンベルグ反強磁性体 / ジャロシンスキー-守谷相互作用 / カゴメ格子 / スピンボール / スピンギャップ / 帯磁率 / フェリ磁性 |
Research Abstract |
1. スピンボールの研究について S=1/2のスピンボールMo72V30が数年前に合成され,カゴメ格子との類似性からRVB状態の実現可能性に興味が持たれていた。しかしながらMo72V30のスピンギャップは理想的なスピンボールで期待されるものよりも小さく,昨年度,その原因は空間的歪みにより相図中でフェリ磁性相に近接した位置にある為と論じ,また,帯磁率の実験データを定量的に再現する相互作用パラメータを見出した。一方,W72V30の帯磁率は空間的歪みのない模型で再現できるとの報告があり,我々もそれを確認した。今年度は,W72V30に対する歪みのないスピンボール模型とMo72V30に対する歪んだスピンボール模型で比熱,磁化過程,交換ラマン散乱スペクトルを計算し,両系の比較検討を行った。 2. フッ化ルビジウム銅スズの研究について (i) 三重項励起スペクトル:この化合物は歪んだカゴメ格子系を形成し,スピンギャップを持っている。大型単結晶の育成が可能で,非弾性中性子散乱実験により三重項励起スペクトルの測定が行われ,理論計算との比較がなされていた。今回,更に分解能を向上させた実験が実施され,いくつかの新たなモードが見えた。今年度はその起源の理論的解明に取り組んだ。 (ii) 磁場中スピンギャップ:c軸方向磁場のもと,非弾性中性子散乱実験によって磁場中スピンギャップの測定が行われ,その磁場依存性にアップターンが見られることが報告された。この起源としてDM相互作用とスタッガードゼーマン項が考えられるが,我々はまずCuF八面体の傾きに由来するスタッガードゼーマン項の定式化を行い,この項が非常に大きいことを指摘した。そして,厳密対角化法でスピンギャップの磁場依存性を計算し,DM相互作用の面内成分とスタッガードゼーマン項が協調してアップターンが現れることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まずスピンボールの研究について,これまでに我々のグループでスピンボールの一重項状態の状態数を計算しRVB状態特有の構造を持つことを指摘していたが,今回,それを実験的に直接観測する手法としてラマン散乱が有効であることを理論的に示した。今後,実験的研究の進展が期待される。 次にフッ化ルビジウム銅スズの研究について,高分解能非弾性中性子散乱実験で得られた新たなモードの起源がわかったことは大きな進展であった。その機構とは,構造相転移によって低温相で単位胞が拡大されるという実験事実に基づき,2次元ブリルアンゾーンの畳み込みにより新たなモードが出現するというものである。以前の解析に用いたハミルトニアンに加え,磁気的ユニットセルを拡大する摂動を導入することによって新たなモードが自然に説明されることが明らかになった。また,この系の磁場中スピンギャップの解析を通じて,DM相互作用の面垂直成分dzの符号がスピンギャップの振舞いに対して非常に重要であることがわかってきた。古典系では,面内スピン構造のカイラリティと面垂直方向の弱強磁性の有無がdzの符号に支配されていることが知られている。これに対してスピンギャップを持つ量子系では,今回の厳密対角化計算(12サイト)によって,dzの符号に応じてスピンギャップにアップターンがでる場合とギャップが閉じる場合があることが示唆され,これは大きな驚きであった。
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Strategy for Future Research Activity |
スピンボールについて,最近接のシングレットダイマーカバーで張られる空間での変分計算を行いって数値対角化による厳密な結果をどの程度再現するのか調べることを計画している。歪みによる基底状態波動関数の変形について,RVB描像に基づいて物語る事ができたら面白い。また,slave-boson法を用いた平均場近似理論の展開も模索していきい。 フッ化ルビジウム銅スズについて,スピンギャップの磁場依存性からdzの符号が決まったが,それはこれまで計算に用いていたものと異なる。まずは磁気構造因子を再計算し,以前の論文で報告していた散乱強度の実験との不一致が解消されるか検討したい。また,絶対零度帯磁率の級数展開も再計算する必要がある。スタッガードゼーマン項を取り込むためのアルゴリズムも検討しなくてはならない。更に,クラスターを再構築(三角要素をひとまとめにする)し,クラスター総数を低減して級数の伸張も謀りたい。DM相互作用の面内成分の大きさについて,絶対零度帯磁率の実験結果からするとあまり大きいとは思えないが,スピンギャップの磁場依存性からするとある程度の大きさを持っているようで,どのように折り合うか非常に興味がある。 フッ化ルビジウム銅スズの模型に対する数値対角化はサイズが12サイトに制限される。dzの符号と磁場中スピンギャップの関係について,次元を犠牲にしてでも熱力学極限での結果が知りたい。フラストレーションのないラダーでは磁場中スピンギャップがDMRGで計算されており,その曲線は非常に単純である。1次元フラストレート反強磁性体ではどうなるか非常に興味が持たれる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究成果の対外発表のための旅費,論文投稿費用が使途の中心となる。
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Research Products
(5 results)
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[Presentation] 籠目格子反強磁性体Rb2Cu3SnF12における一重項・三重項励起の磁場依存性
Author(s)
南部雄亮, K. Matan, Y. Zhao, 小野俊雄, 福元好志, A. Podlesnyak, G. Ehlers, J.W. Lynn, 佐藤卓, C. Broholm, 田中秀数
Organizer
日本物理学会第68回年次大会
Place of Presentation
広島大学東広島キャンパス
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