2011 Fiscal Year Research-status Report
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23540402
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
長尾 辰哉 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00237497)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 共鳴X線散乱 / 多極子秩序 / 動的構造因子 / 共鳴非弾性X線散乱 / 磁気形状因子 / 電気磁気効果 |
Research Abstract |
研究目的は以下の3つに分類され、それらは大別すると、1.共鳴x線散乱の弾性過程を主として反転対称性の破れた系への適用を念頭に構築、2.共鳴x線散乱の非弾性散乱過程を用いた磁気励起の解析理論の構築、3.予備プラン、であった。順に実績をまとめる。計画1.反転対称性の破れた系として、マルチフェロイック物質を例にGaFeO3を選び、共鳴X線散乱の弾性過程を解析する理論を構築し、実際に定量的な検討を行った。計画2.銅酸化物のL吸収端で共鳴X線散乱の非弾性過程により観測される磁気励起を解析する一般的な理論の構築に成功した。有効性を示すため、1、2次元の銅酸化物に適用し、実験結果を説明する結果を得た。計画3.予備プランでは開発済みの理論を用い、実験グループからもたらされたデータ、四極子秩序を示すCeB6に対する共鳴x線散乱の弾性過程のデータ、及び磁性体であるFe合金の磁気散乱のデータ解析を行った。これらの結果、第一に、計画1.に対する成果から、空間反転対称性の破れた系におけるX線領域の電気磁気効果は、鉄酸化物の場合、局所的な対称性を正しく考慮すれば比較的小さなクラスターの解析でも本質が捉えられることが示された。第二に、計画2.に対する成果では、銅酸化物のL吸収端の中間状態のスピン自由度が消えた状態から磁気励起を取り出す機構の微視的な立場からの解明に初めて成功し、それらは当初予定した長距離秩序がある場合(二次元)だけではなく、長距離秩序がない場合(1次元)にも適用可能であることが判明し、いずれもスピン自由度だけを考慮しても観測結果が説明できることや、中性子非弾性散乱との相違を明らかにした。第三に、計画3.に対する成果では、異なるランクの秩序変数が干渉し合う様子を、スペクトル解析の立場から初めて定量的に明示することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画1.共鳴X線散乱の弾性過程。パリティ奇の過程を記述する理論の構築と、物質への応用を予定していた。前半については、マルチフェロイックの典型物質GaFeO3を題材にした理論共鳴X線散乱の電気磁気効果的な帰結を示す理論を構築しほぼ達成できたが、数値的な成果を出す段階で実験データが不足し、理論が定量的にも十分なのか確認するところに至る直前である。7割程度の達成度。計画2.共鳴X線散乱の非弾性過程。当初、L吸収端の磁気励起スペクトル解析用の新しい理論構築と、具体的な応用1つ程度を予定していた。実際には分野の進展が速く、欧州の実験グループとの議論などから、緊急性が増し、優先順位が上がり、定式化ができたのみならず、長距離秩序のある系、ない系のそれぞれに対し、具体的な解析を済ませ、ともに論文、発表などで高評価を得た。ペースは予定を上回り、平成24年度以降予定分の多くを初年度(平成23年度)で達成できた。達成度120%。計画3.予備としてすでに手中にある手法を用い、緊急性をもたないテーマを落ち着いたペースで実施する予定であったが、所属大学及び他大学の実験グループからの要請で、それぞれランクが1、及び2,3の多極子の関わるデータの解析を取り急ぎ行うこととなった。達成度110%。以上を総合すると、計画(I)はほぼ予定達成、(II)、(III)は予定を上回る達成となり、総合するとかなり『順調』に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
計画1.共鳴X線散乱の弾性過程。パリティ奇の過程を記述する理論の構築には成功した。計画にしたがい、長周期系にこれを拡張する。定量性を見るための実験データが不足していることもあり、情報収集にもさらに邁進する。計画2.共鳴X線散乱の非弾性過程の磁気励起解析。分野の進展が速いため、3つの計画の柱のうち、これを最優先課題とする。初年度(平成23年度)開発に成功した理論の定量性を向上させるための精緻化と、その有効性を実証するため、低次元銅酸化物のいくつかの典型物質に対する実験データの解析の両面で動いており、これらを遂行する。計画3.予備プラン。すでに実験グループからの理論補助を要請されており、計画1.及び2.の遂行上負担にならない範囲で、実験グループからのデータの提供があり次第、解析を会誌し、報告者が既発表の理論の有効性の普及に努める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度(平成23年度)に計算機サーバが購入できたため、平成24年度の研究費のうち、主要な部分は、国外での国際会議、国内の物理学会、研究会などにおける成果発表や研究者との議論、情報収集に費やす。特に、計画1.や3.の主要グループは国内でも放射光施設のある遠距離に点在し、また計画2.の関連実験は、ヨーロッパの複数のグループが優勢で、それらのグループの複数が集う会議や、あるいは特定のデータを狙って、該当グループの所属機関を直接訪問するなどの手段を検討している。60%程度が必要かと思われる。現在投稿中、準備中の論文を含め、平成24年度内に数編の出版が期待され、20%ほどは別刷りなどの雑費に回す。また、平成23年度の作業から不足している点の補充として、論文等からデータを精度よく読み取るソフト、専門書籍の充足、PC環境の整備など、細かな支出の合計が残りの20%程度になる予定である。
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Research Products
(12 results)