2012 Fiscal Year Research-status Report
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23540402
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
長尾 辰哉 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00237497)
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Keywords | 共鳴X線弾性散乱 / 共鳴X線非弾性散乱 / 多極子秩序 / 磁気形状因子 / 射影法 / マグノン励起 |
Research Abstract |
研究目的は大別して3つに分類され、1.共鳴X線散乱の弾性過程の理論を主として空間反転対称性の破れた系へ拡張、2.共鳴X線散乱の非弾性過程を磁気励起測定に利用する理論の構築、3.予備プランであった。当該年度は、国内外の研究情勢に鑑み、主として2,3.に集中した形で研究を行い、大きな成果を得た。 計画1:マルチフェロイック系に共鳴X線散乱の弾性過程の理論を適用する意図で前年度に開発した理論であったが、当該年度は、公開された実験データに適用に適するものがなかった。そのため、間接的な成果として、希土類元素における散乱振幅の評価に必要な双極子遷移行列要素の計算に利用できる動径分布関数の数値を計算し、表にまとめて出版した。分野で最も普及している表にも記載のなかったデータを補完したもので、すでに複数の実験グループにより利用されている。 計画2:局在電子系における共鳴X線非弾性散乱による磁気励起スペクトルの解析の理論計算を継続し、長距離秩序のない準一次元系へ理論の適用を行った。従来中性子散乱でしか見えないと信じられていたある磁気励起モードが共鳴X線散乱でも観測可能であることを初めて理論的に示し、また2スピン相関関数の観測結果を予言した成果であり、結果を論文として出版、国際会議などで発表した。その内容は分野内で一定の評価を得たと思われ、日本放射光学会から、学会誌への解説記事の執筆依頼があり、掲載が許可された。 計画3:異なるランクの多極子の影響が干渉しあう現象は、初期の実験データの解析として、本研究者の既存の理論で説明されていたが、今回、広島大学の実験グループからの要請により、具体的に実験データを解析するのに理論で求めた関数を利用し、初めて大規模な定量的有用性を示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画1:共鳴X線散乱の弾性過程の理論をマルチフェロイック系に適用する具体的な解析例は、適用にふさわしいデータの出現の待ち状態であるが、遷移行列要素を見積もるための動径分布関数の表を作成、出版し、分野の実験データ処理には貢献することができた。到達度80点程度。 計画2:局在電子系に対し、準一次元系に対し、定量的な計算を行った。共鳴X線非弾性散乱のデータが、この系において従来観測できたとされる2トリプロン励起の再現の他、1トリプロンの観測可能性の予言、2スピン相関関数の計算など、半定量的に初めて示すことに成功した。当初は局在電子系の話題でも十分満足と予想されていたが、最終年度は遍歴電子系への拡張まで手を出せるようになった。到達度120点ぐらい。 計画3:多極子秩序相の弾性散乱の研究成果を、他大学実験グループの実験データ解析に使用したいとの申し出を受け、共同研究が実った。理論の成果の定量的な実用性が分野でほぼ初めて実証された。到達度100点ぐらい。 以上を踏まえ、また既述の日本放射光学会からの解説記事執筆依頼といった客観的な成果も鑑み、全体としては順調に成果が上がっている。
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Strategy for Future Research Activity |
原則もっとも順調で、内外からの注目度も高い、計画2の内容をメインとする。 計画2:国際的に分野の研究の進展が速く、計画自体も順調に進んでいる計画2の、共鳴X線非弾性散乱による素励起の理論の展開をメインに立てる。方向は、これまでの局在電子系における扱いを超え、遍歴電子系に理論を拡張し、金属相、ドープ相への適用可能な理論の枠組みを作り、これを銅酸化物高温超伝導体などの実験データの微視的な機構の解明へ適用する。 計画1:初年度に構築した理論の枠組みを適用できるデータが現れ次第、解析を行う。 計画3:予備プランであるため、メインの計画2の遂行を優先するべきであるが、国内他大学の実験グループが、新たな吸収端におけるデータ解析に我々の理論の関数の使用を望んでおり、その分に対しては積極的に関与する予定。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度(平成25年度)は計画最終年度であるため、これまでの成果の集大成の意味を込め、国内外における国際会議や学会などでの成果発表を複数計画しているため、それらに要する旅費、参加登録費などが一番大きな支出となる。予定している国際会議には、米国と東京で開催予定の2件があり、国内学会は徳島、神奈川で行われる2件がある。これらの経費は全体の7-8割程度を占めることが予想される。また、投稿中、準備中の論文、研究遂行中の論文など、年度内に数編の論文の出版が予定され、別刷りなど雑費へ1-2割への支出を回す。余裕がある分は、主として分野の専門書籍をできるだけ年度の早い時期に購入し、成果のまとめに役立てる。これは高々全体の1割前後になる予定。
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Research Products
(7 results)