2012 Fiscal Year Research-status Report
分子性導体の外場誘起非線形現象における階層間結合効果の理論
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23540426
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
米満 賢治 中央大学, 理工学部, 教授 (60270823)
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Keywords | 集積型金属錯体 / 電荷分離 / 電子格子相互作用 / 光誘起相転移 / 有機導体 / 電荷秩序 / フラストレーション / 非線形伝導 |
Research Abstract |
光誘起相転移の前駆となる過渡状態は平衡状態から大きく離れている。したがって、過渡的な分子の価数を予測するときに、分子の価数に敏感な電子励起を観測するのと、分子振動の振動数を測定するのとでは、平衡状態で得られた経験則を使う限り、異なる結果を導いてしまう。超高速変化の初期過程では、一般に断熱ポテンシャルに沿って運動は起こらず、電子状態と振動状態の個別の情報と相関の解析が重要である。 この観点からEt2Me2Sb[Pd(dmit)2]2の電荷分離相とモット・ハバード相における、振動状態とその光誘起時間変化を調べた。平衡状態における電子相を説明するには、分子を単位とすれば十分である。しかし、電子相によって異なる分子振動の振動数を説明するには、分子内の軌道自由度に由来した分子振動のソフト化を、平衡状態においてさえ考える必要がある。様々な分子振動がそれぞれ異なる分子内電子正孔励起と結合し、異なった強さでソフト化することを導いた。ここまでは断熱近似の範囲内で得られる。 光誘起過渡状態において、断熱描像で予想されるソフト化とは異なった振動数で分子振動が起こる。これは、光励起密度が高いとき、および分子振動の振動数が高いときであることを明らかにした。また光励起エネルギーがダイマー間トランスファー・エネルギーより大きいとき、電荷秩序の融解は光励起密度の単調増加関数とならない。強励起では逆に電荷秩序の融解が抑制されるが、これには動的局在の寄与と、軌道励起の寄与があると予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分子性導体における階層間結合の効果を明らかにするにあたって、光誘起過渡現象における分子内の軌道励起と分子間の電荷移動の絡み合いがかなりわかってきた。これにより、今まで詳しく研究されてこなかった、断熱描像からの違いの定量的側面を整理できた。さらに光励起が引き起こす軌道励起に由来する新しい電子状態について、数値計算の結果が蓄積されてきた。したがってEt2Me2Sb[Pd(dmit)2]2については順調に進んでいる。beta-(meso-DMBEDT-TTF)2PF6の非線形伝導については結果を整理中である。
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Strategy for Future Research Activity |
強励起における電荷秩序融解の抑制には、いくつかの異なる機構が同時に働いていることが示唆されている。そのため、異なる条件で数値計算を実行することにより、この解析を進める。また電子格子相互作用の強い分子性物質における非線形伝導の計算結果を解析して論文にまとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年4月に分子科学研究所から中央大学に異動したが、これまでに導入した計算機や今後購入予定の計算機を設置する部屋の空調工事がまだ始まらないため、備品を購入できず、繰越が発生した。平成25年度には空調工事が終わる見込みで、計算機やソフトウェアを整備しつつ、プログラムの開発と数値計算を進める。打ち合わせや成果発表のために出張する際に、実験結果との比較検討をそれぞれの実験研究者と行う。
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