2013 Fiscal Year Research-status Report
分子性導体の外場誘起非線形現象における階層間結合効果の理論
Project/Area Number |
23540426
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
米満 賢治 中央大学, 理工学部, 教授 (60270823)
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Keywords | 集積型金属錯体 / 電荷分離 / 電子格子相互作用 / 光誘起相転移 / 有機導体 / 電荷秩序 / フラストレーション / 非線形伝導 |
Research Abstract |
光誘起相転移の多くは、もともと温度や圧力の変化で相転移が実現する物質および環境の近傍で、光照射をすることにより実現している。もし、物質中で競合する相互作用が、光照射で直接変調できれば、光誘起相転移を実現する可能性が広がり、そのダイナミクスの制御に向けて大きく前進する。この可能性を探る観点から、電荷分離相にあるEt2Me2Sb[Pd(dmit)2]2を小さい電場振幅で光励起して、これまで観測された電子状態の変化を再現する電子模型を使って、研究を行った。まだ実現していない、大きい電場振幅で光励起したときの、電子状態の変化を理論的に計算した。 一般に、電場振幅が大きいと、移動前後の電子の居場所である二つの軌道の準位差が大きくなって、電子が動けない時間帯が長くなり、電子が局在しうることが知られている。この現象は動的局在と呼ばれる。ところで、Et2Me2Sb[Pd(dmit)2]2は強く二量化した系であり、電荷分離は二量体の間で起こる。これに関わるパラメタは複数の二量体間のトランスファー積分である。光誘起融解を実現するのに使われたレーザー光の中心エネルギーは、二量体内の電子遷移にほぼ共鳴している。これに関わるパラメタは二量体内のトランスファー積分である。これら二種類のパラメタを、光照射のしかた次第で独立に変調できることがわかった。 連続波励起の場合、二量体間の有効トランスファー積分を減少することにより、動的局在が起こり、光誘起融解を抑制できる。これは、これまでに知られている事実からの自然な拡張である。しかし、パルス励起の場合、パルス光があたる短い時間で、二量体間の小さいトランスファー積分を変調することができない。しかし、二量体内の有効トランスファー積分を減少させ、光誘起融解を抑制できることがわかった。これは、二量体内の電子遷移を制御して実現できることを、解析的な計算とともに示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分子性導体における階層間結合があって初めて起こる、光誘起過渡現象として、動的局在に関連して起こる電荷移動の抑制があることがわかった。従来は階層がない模型においてのみ研究されてきたので、電場振幅の大きい光励起については、連続波励起とパルス励起にあまり違いがなかった。しかし、分子二量体の内外の自由度をもつ系で、二量体間の電荷移動と二量体内の電子遷移が、それぞれ連続波励起とパルス励起でのみ変調される現象を見出した。これは、これまでに予想されなかった効果であり、研究が大きく前進した。
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Strategy for Future Research Activity |
強励起における電子模型のパラメタ変調については、異なる機構が知られていた。分子性導体の階層間結合を利用すると、さらに新しい機構があることが、本年度の研究から示唆される。どの模型パラメタが、どのように変調されるかについて詳しく調べ、計算結果を解析して論文にまとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年4月に分子科学研究所から中央大学に異動したが、平成25年度中に空調工事がようやく完了し、計算機環境を整えている途中であり、繰越が発生した。 平成26年度には新たに計算機やソフトウェアを整備しながら、プログラム開発と数値計算を進める。研究成果を国内外で発表するとともに、理論予測と実験結果を比較検討するために実験研究者と打ち合わせを行う。
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