2011 Fiscal Year Research-status Report
CVD合成されたグラフェンのサイクロトロン共鳴に関する研究
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23540429
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
竹端 寛治 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (50354361)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | グラフェン / サイクロトロン共鳴 / 強磁場 |
Research Abstract |
初年度である平成23年度には、まず研究代表者がこれまで開発した既存の強磁場中磁気光学分光装置を用いてCVD法生成単層グラフェンのサイクロトロン共鳴吸収測定を行った。CVD法生成単層グラフェンは大面積の試料を容易に得ることができるので、これまでの測定技術で測定可能である。またCVD法生成グラフェンは任意の基板に転写することができるため、今回、シリコン、ガリウム砒素、ガラスなど異なる基板上のグラフェンに関して測定を行った。その結果、明瞭なサイクロトロン共鳴吸収が複数の指数において観測され、その共鳴位置はディラックフェルミオンに特徴的な√B依存性を示した。そこから求まるフェルミ速度は、基板に顕著に依存し、一部の試料ではグラファイトにおけるディラックフェルミオンのフェルミ速度から大きくずれることが解った。ワイヤーグリッドによりサポートした大面積宙吊りググラフェン試料を試作し測定を試みたが明瞭なサイクロトロン共鳴吸収は観測できなかった。グラフェン試料に関してはサイクロトロン共鳴測定に加えラマン散乱顕微鏡により試料評価を行いイメージ画像により試料全体の90%以上の部分から単層グラフェン的なラマン散乱スペクトルを確認した。また、大面積単層グラフェン試料をレーザーリソグラフィ法および反応性イオンエッチングを用い、数十ミクロン程度の比較的大きめのホールバーに成形し強磁場中における輸送現象特性を評価した。その結果、移動度は数百cm²/Vs程度ではあるが明瞭な単層グラフェンに特徴的な量子ホール効果を観測した。 より強磁場下での測定を目指し強磁場中磁気光学分光装置における検出器部分をサンプル直下に設置する装置開発を開始した。今年度はボロメータ素子を極低温磁場中試料空間で使用可能なユニットに組み込むことを試みたが空間的な制約が厳しくボロメータ素子の冷却が不十分になる可能性が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度においては当初の研究計画に従い、既設の強磁場中赤外領域磁気光学分光装置を用いることにより、CVD法生成単層グラフェン試料についてサイクロトロン共鳴吸収測定を行った。数種類の異なる基板上のグラフェン試料に関してディラックフェルミオンに特徴的なサイクロトロン共鳴吸収を観測し、フェルミ速度が基板に依存するなどの知見を得た。ゲート電圧を制御することによるサイクロトロン共鳴のフィリングファクター依存性の測定や、大面積宙吊りグラフェン試料におけるサイクロトロン共鳴測定などの試みについては計画を前倒しして取り組んでおり技術的な問題は解決済みであるが、明瞭な測定結果を得られておらず、次年度以降引き続き研究を行う。グラフェン試料は、サイクロトロン共鳴測定に加え、ラマン散乱顕微鏡や強磁場中輸送現象測定などにより特性評価を行った。ラマン散乱スペクトルにより試料全体の大部分が単層グラフェン的であることを確認した。また、大面積単層グラフェン試料を数十ミクロン程度のホールバーに成形した試料においては単層グラフェンに特徴的な量子ホール効果を観測した。 また同じく平成23年度から実施を計画していた測定装置における検出器部分などの改良に関しては極低温強磁場において使用可能なボロメータユニットを製作するための試作を行った。空間的な制約が厳しく当初計画していた構造ではボロメータユニットの冷却が不十分になる可能性が認められたため、ボロメータの種類やボロメータユニットの構造などを再検討し次年度に設計および製作を計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度である平成23年度には既存の強磁場中磁気光学分光装置を用いた単層グラフェンのサイクロトロン共鳴吸収測定を行い、また強磁場中磁気光学分光装置における検出器部分の改良に着手しており、当初の研究計画に従って研究を進めている。本研究2年目である平成24年度においては前年度に引き続きこれらの研究を進めるが、特に磁気光学分光装置における検出器部分の改良が当初研究計画に比べ遅れが生じているため今後精力的に取り組む予定である。研究計画に述べたように強磁場中磁気光学分光装置における検出器部分の改良に関しては極低温強磁場において使用可能なボロメータユニットを新規に製作するが、上述のように当初想定していた構造やボロメータの種類など基本設計から見直しが必要となり現在検討中であり早急に製作に取りかかるように努力する。ボロメータユニットの完成後は、極低温強磁場環境下における動作確認、更に磁場引加の影響を評価し、その影響を差し引くことで試料のスペクトルを算出する測定技術の確立を目指す。また、CVD法生成グラフェン試料に関して、これまでサイクロトロン共鳴測定を中心に研究を進め上述のように成果が得られてきたが、試料の質的なばらつきが問題になってきた。今後はサイクロトロン共鳴吸収だけでなくラマン散乱分光、輸送現象測定など様々な測定手段で評価を行うと共に、試料作製を行う共同研究者との情報の共有や協力することで試料の質の向上を図りながら研究を進める。宙吊りグラフェンや二層グラフェン、三層グラフェンなどの多層グラフェンについてもサイクロトロン共鳴測定用に試料の準備を共同研究者と共同で進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度には、極低温強磁場において使用可能なボロメータユニット製作のための試作機による予備的な実験に時間を要したため、当初計画していたボロメータ素子の購入を取りやめ、その代わりにゲート電圧制御によるフィリングファクター依存性の測定を行うため精密ソースメータを購入した。 次年度においては、上述のように極低温強磁場において使用可能なボロメータユニットの設計、製作を行う予定にしており、ボロメータ素子や集光コーン、ローノイズプリアンプなどの購入とボロメータ素子を極低温強磁場環境下で使用するためボロメータユニットに組み込む製作費用などを予定している。また、それに伴い強磁場中磁気光学分光装置における測定プローブも製作する必要があり、その製作費用および温度構成済みセルノックス温度計(1.6K~300K)、真空部品などの消耗品購入を予定している。
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