2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23540435
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
中川 尚子 茨城大学, 理学部, 准教授 (60311586)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 非平衡定常系 / 力学的仕事 / メソスコピック / 揺らぎ / Jarzynski等式 |
Research Abstract |
研究計画の初年度である平成23年度は、非平衡定常系に外部から仕事を施した場合に成立する熱力学関係式の導出を行った。非平衡定常系とは、例えば熱伝導系や定常電場をかけられた系であり、恒常的に流れ(熱流や電流)が存在すること、それに伴い恒常的散逸が生じることが特徴としてあげられる。系に操作を施す(例えば系の中に埋め込んだナノ粒子を移動させる)には力学的仕事を要する。熱平衡系では最小仕事の原理、つまり、系の変化に必要な仕事は準静極限では系の自由エネルギー差に等しく、有限速度での操作では自由エネルギー差よりも多いという一般法則が成立する。有限操作では無駄な熱の散逸が起きるから等式とならない。仕事の等式は、メソやマクロのスケールでポテンシャル関数を用いたモデルを作成するための基盤を与えている。恒常的な散逸を伴う非平衡定常系でも最小仕事の原理は成立するのか?メソやマクロのモデル化にポテンシャル関数を使う妥当性を見いだすことは可能だろうか?この問題を明らかにするために、非平衡系での力学的仕事が満たす関係式(等式と不等式)を導出した。平衡、非平衡を問わず成立する詳細揺らぎの定理から出発し、準静極限での力学的仕事は、自由エネルギー差と線形応答関係の操作によるずれの和に一致した。この結果は、例えば非平衡定常系に埋め込まれた粒子の運動をモデルで表現したい場合、粒子が受ける力をポテンシャルを使って表現できないことを示唆している。得られた関係式は、形式的に非常に美しい。平衡条件下(熱力学的駆動力なし)ではJarzynski等式と言われる最小仕事の原理を表現する既知の仕事等式と一致し、操作を加えない場合には線形応答関係式を表現している。最小仕事の原理という平衡熱力学の金字塔と線形応答関係式という非平衡現象の金字塔を同時に含有する関係式が、非平衡定常系の仕事等式を完成させることによって現れたのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
非平衡下にある系の揺らぎと応答、力学的仕事の関係を端的に示すことに成功した。これにより、ナノマシン動作の熱力学理解を目指す本研究計画の基盤を作ることができた。研究計画書に記載した課題1~3のうち、課題2が飛躍的に(申請時の計画以上に)進展した状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度は原発事故に伴う電力不足という特殊な状況があり、新たな数値計算用のコンピュータを購入し電力を消費することへの懸念があった。そのため、23年度については数値計算を行わない研究計画(計画書記載の課題2)を推進し、数値計算を要する課題1は24年度以降に実行することにした。24年度についても電力不足の問題は指摘されているので、推移を見守りながら計算機の購入を行い、課題1、3に取り組む。課題2が当初予定以上に進展したので、24年度から課題1に取り組むことになっても、計画の遅れには該当しない。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度繰り越し分も合わせて、当初予定よりもCPU数などの多い計算機を購入し、計画書の課題1、課題3を推進するつもりである。
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