2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23540439
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
巾崎 潤子 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (10133331)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ガラス転移 / 分子動力学 / 相図 |
Research Abstract |
一成分のソフトコア系は、従来、結晶化しやすくガラス転移が観測できないとされていたが、2048粒子系などでは、ガラスの特徴を持つ準安定構造が十分観測できることを分子動力学法により明らかにした。系の圧縮率因子を無次元化した温度あるいは密度に対してプロットすることで、ソフトコア系の相図を広い範囲で作成した。時間に依存した圧縮率因子を用いると系の非平衡緩和挙動もこの相図にマッピングすることができる。そこで、これを用いてNVE(粒子数、体積、エネルギー一定)条件での緩和挙動を詳細に調べた。粒子の拡散係数はNVE緩和に沿って急激に低下し、結晶(fcc構造)の作る結晶分枝より少し離れた液相分枝側に、fccの部分構造とbccの部分構造(互いに逆格子)が粒子レベルで混合した準安定構造が見られた。このような構造がつくるカーブをガラス分枝と呼ぶことにする。4096粒子系についても同様な挙動を取ることをいくつかの点について確認した。系を液相分枝に沿って急冷するとNVE緩和が始まらずに過冷却にすることができると従来考えられていた。この場合にも拡散係数の低下が見られ、これをガラスとみなすことも多い。しかし、この場合にも、長時間のNVE緩和後にはゆっくり冷却した場合と同様にガラス分枝に向かうことが明らかとなった。急冷系では、二体相関関数の第一ピークの分裂などの特徴がある構造が知られているが、これはガラス分枝に向かう途中の液体に近い状態に系がトラップされたものであることがわかった。このように、一成分ソフトコア系は、異種原子の混合の影響を受けない、ガラス転移の有用なモデルとなることが示された。さらに、ガラス転移に伴う熱力学量の変化を検討するための基礎となる結晶の熱力学について相図に沿って検討した。ゆらぎやその分布が複雑な温度(または密度)依存性を示すことがわかったので、さらに詳細な検討を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2048粒子ソフトコア一成分系について、広い範囲での相図を求め、これに非平衡緩和をマッピングすることで、この系がガラス転移のモデルとして有用であることを示すことができた。また、粒子数や周期境界条件の影響についても検討した。この緩和過程にともなう構造変化がどのようなものか、また拡散係数がどう変化していくかを明らかにした。また、急冷の場合とNVE緩和にすぐ向かう場合が、どちらもガラス分枝に向かう非平衡緩和過程を示すことが明らかになった。つまり、ガラス転移に向かう複数の経路が存在することを、相図にマッピングすることで明確に示すことができた。また結晶化を回避して非平衡緩和を観測できる粒子数や相図上での位置などを調べた。これらの項目については計画通りあるいはそれ以上に順調に進んでいると判断できる。また、ガラス転移に伴う系の熱力学を考える上での基礎として重要な結晶の熱力学挙動について基礎的な検討を進め、複雑な温度(または密度)依存性を明らかにしつつある。この点も順調ではあるが、結晶の挙動がかなり複雑なために、各温度領域毎に詳細な検討をする必要がでてきており、ガラス転移に沿った挙動との比較の前に明らかにすべき事項、(系の非調和性と非ガウス性の温度効果、極低温で見られる決定論的な明確な構造をもった、ゆらぎの性質など)が増加している。この検討に多くの時間が必要になっている。非平衡緩和にともなう熱力学的な挙動の検討も、これらの複雑な挙動から得られた知見を十分考慮して進める必要があると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
ソフトコアの利点である緩和挙動を式に厳密に表せることなどを生かして、これに沿った熱力学量の変化を調べることで、ガラス転移に関する知見を得ていく。しかし、比較対象として重要な結晶の熱力学的挙動が複雑なことがわかってきたのでこのより詳細な検討が必要であり、非平衡緩和にともなう熱力学的な挙動の検討もこれらから得られた知見を十分考慮して進める必要があると思われる。 ソフトコア系は温度依存性などが非アレニウス的に変化するいわゆるフラジャイルな系に分類されるが、フラジリティの異なった関連系との比較も進めていくことで、その挙動の特徴を明らかにしていきたい。 また、実験的に知られている熱力学的スケーリング則とソフトコア型のポテンシャル関数との関係がガラス転移の分野で大きな問題となってきているので、これについても検討していく。科研費の3割の支給時期が不明だったために、国際会議の参加を一件見送った。その後、アメリカセラミックス学会(2012年5月)の招待講演の依頼があり、それに旅費が必要となったので、この分の直接経費を次年度に合わせて使うことにした。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上述のアメリカ、セラミックス学会の2012 Glass & Optical Materials Division meeting、およびThe 4th International Symposium on Slow Dynamics in Complex Systems において、ガラスに関係した招待講演を依頼されているので、本研究の成果を取り入れた講演を行う予定である。そのための旅費が必要である。大容量のデータを扱うので、データストレージを増設する。またデータの処理に必要なソフトウェアを拡充する。これらの拡充は次年度においてもデータの蓄積や解析の進展にともない必要である。
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