2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23540439
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
巾崎 潤子 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (10133331)
|
Keywords | ガラス転移 / エントロピー / 相図 / 分子動力学 |
Research Abstract |
前年度までに、ソフトコア一成分系について、広い温度、圧力範囲に相当する広い換算密度の範囲での相図を分子動力学法で求めたので、これに沿って熱力学量についての検討を行なった。 ガラス転移を相図に沿って調べるためには結晶の挙動が基準となる。そこで、fcc結晶の熱力学量の温度依存性を詳しく調べた。系の比熱やエントロピーなどの熱力学量はガラス転移を表す重要な量であり、これは系の圧縮率因子の関数または、ポテンシャルの関数として表現することができる。この表式を求めて、ポリノミアルに展開した時の係数を求めた。この係数を用いて、比熱やエントロピー変化に対する非調和項など各項の寄与について議論することができた。比熱は温度のゆらぎからも求めることができるので、この結果と比較をおこない、平衡系の熱力学量の求め方を非平衡系に拡張できることを示した。これらの結果はPhys. Chem. Chem. Phys.誌に掲載された。 さらに、これらの表式を用いて、ガラス転移に伴う比熱やエントロピーの変化を詳しく検討し始めている。相図の液相線に沿って系を急冷した場合と、NVE緩和に沿った場合を区別することによって、従来議論が続いていたカウズマンパラドックスについて矛盾のない議論をすることができた。これらの一部についてはJ. Chem. Phys.誌に投稿し受理されたところで、さらに国際会議等での発表予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分子動力学シミュレーションを用いて、逆べき型のポテンシャル関数を持つソフトコア系における広範囲の相図の作成を行い、それに沿って系の構造変化や熱力学量の変化を詳細に調べた。まず、結晶について、比熱やエントロピーを式に展開してその係数で特徴づけることに成功した。従来、二成分系で行われることが多かったソフトコア系のガラス転移の研究を、混合効果を除き、理論的にも扱いやすい一成分系で発展させることができた。 ガラス転移の熱力学な研究は、これまで単純化した結晶の描像に基づいてこれと比較することで行われてきたように思う。本研究では、ソフトコアモデルの様な基本的な系でさえかなり複雑な温度依存性を示し、極低温ではカオスに関係した決定論的な運動が熱の担い手であることなどが明らかになってきた。また、先に述べた式で熱力学量を表示する方法を高温領域についても行い、ガラス転移に伴う熱力学量の変化を広い範囲で式に表して評価検討することに成功した。このような定量的記述に基づいてガラス転移の熱力学を表した研究はこれまでなかったと思うので、大きな成果といえよう。 結晶についての熱力学量の詳細な結果をすでに出版しており、ガラス転移についての論文も受理されるなど、結果も順調にまとまってきているので、おおむね順調に進展しているといえよう。
|
Strategy for Future Research Activity |
ガラス転移に伴う構造、ダイナミクスの変化については、さらに詳細に解析し、結晶化が起こる場合と起こらない場合の際などについて議論していく。 これまでの研究は、主に理論的に扱いやすく、人工的な拡張アンサンブルを用いないエネルギー一定の条件下で行ってきた。 一方で、ガラス転移は実験系では定圧状態で観測されることが多いので、これと直接比較するには、圧力一定の条件のシミュレーションを行うことも有用である。ソフトコア系は、エネルギー一定(NVE)の場合には、非平衡緩和でさえ式で表すことができるという著しい特徴がある。同様に、非平衡緩和の挙動を圧力一定の場合についても式でうまく表現できるかどうか興味が持たれる。 この温度一定の条件で緩和の式が求められると、これと冷却速度との兼ね合いでガラス転移が記述できると予想される。さらに、粒子のナノスコピックな挙動が詳細にわかる分子動力学の利点を活かして、ガラス転移の理解とガラス分野の物理、化学の発展に寄与していきたい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
国際会議の招待講演の旅費に充当する予定があったが、一件については先方に負担していただけることになったので、その分を次年度に回した。関連した分野で国際会議二件の招待講演が予定されているので、これらの旅費の一部に当てたいと考えている。 ほかに次年度予算は初年度購入したワークステーションのハードディスクが満杯になってきたので、容量の大きい機種を購入予定である。また、発表や論文に用いる図の作成に適したグラフィック性能の良いパソコンを購入する予定である。また、データの保存や処理に必要なメディアやプリンターのインクなどの消耗品にも使う予定である。
|