2012 Fiscal Year Research-status Report
テンソル積状態の量子エンタングルメント制御と数値くりこみ群
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23540442
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
奥西 巧一 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (30332646)
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Keywords | テンソル積状態 / 数値くりこみ群 / エンタングルメント |
Research Abstract |
テンソルの自由度縮約にもとづくテンソルくりこみ群と高次特異値分解を組み合わせた高次テンソルくりこみ群のアルゴリズムの定式化と,そのエンタングルメントのスペクトルの構造の解析を行った。具体的には2次元イジング模型のボルツマン重率に対し、テンソルくりこみ変換の固定点におけるエンタングルメントスペクトルの計算をおこない、その結果が開いた境界条件にたいするBaxterの角転送行列(CTM)のスペクトルの2重化により説明できることを見出した。これは、これまで独立な方法と考えられていた高次テンソルくりこみ群が、BaxterのCTMの周期境界条件に対する拡張と同等な内容を含むことを示したもので、そのインパクトは大きいと考えられる。この研究は、理化学研究所の上田研究員と、神戸大学の西野准教授との連携研究によるもので、現在発表の準備中である。また、この理論の量子系への拡張として量子XXZ模型に対するテンソル型繰りこみ変換のエンタングルメントスペクトルの計算も行なっている。 また、これらのアルゴリズムの実際の系への応用として、擬1次元XXZ鎖BaCo2V2O8にたいする磁気的な異方性の効果の検証もおこなった。具体的には異方性により単純な系とは異なる磁場誘起磁気秩序が現れることを、数値くりこみ群の結果を用いて示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、空間高次元にも拡張可能なテンソルくりこみ群と高次特異値分解を組み合わせた高次テンソルくりこみ群のアルゴリズムの定式化と,そのエンタングルメントのスペクトルの構造の解析を行った。その結果、これまで独立な方法と考えられていた高次テンソルくりこみ群が、BaxterのCTMの周期境界条件に対する拡張と同等な内容を含むことが解明された。エンタングルメントという新しい指標に基づいた解析を行うことで、これまで一見異なると思われていたものが、見事に一致することを捉えた意義のある研究結果であるといえる。これに端を発し、複雑なテンソルネットワークの数値くりこみ群アルゴリズムを研究する足がかりも得られており、順調な研究の進展が得られていると考えられる。さらに、これまでの研究の副産物として、エンタングルメントと量子モンテカルロシミュレーションの負符号問題との関係性も明らかになってきており今後の展開に広がりも出てきている。 また、単に基礎的な研究にとどまらず、実際の系への応用をパラレルに行うことができ、擬1次元XXZ鎖BaCo2V2O8の新しい磁場誘起磁気秩序を発見することができた。基礎的な研究とその応用が結びついた研究結果である。上記の基礎と応用の2つのタイプの研究が平行に進めることも達成できており、研究の展開度合は、おおむね順調でるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究は概ね順調に進んでおり、基本的には、この路線で最終年度の研究を行う予定である。多体系シミュレーションに対する量子エンタングルメントのコントロールのやりかたの青写真が決定できた。しかし、エンタングルメントの構造の個別のモデルへの依存性などは、まだ解明できていない点が多い。VBS模型のように数学的に厳密に表現できる状態のエンタングルメントと、一般の数値計算で現れるエンタングルメントの構造を繋ぐことは、基本的な問題として残されている。引き続きテンソルネットワーク状態、テンソル積状態に対するエンタングルメントの構造を明らかにするこを目指す予定である。このことは、エンタングルメントと量子モンテカルロシミュレーションの負符号問題の関係性の解明にも重要な役割を果たすと考えられる。 一方、それらと並行してアルゴリズムの高次元化の問題にも取り組んでいく予定である。テンソルくりこみ群は、比較的高次元化が容易なアルゴリズムであるので、現在の延長線上で高次元化アルゴリズムを較正していけると考えている。また、実際の実験系への応用は、継続的に行なっており擬1次元XXZ鎖BaCo2V2O8の物性解明については、引き続き実験かとの協力関係をもとに続けていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
これまでの年度で数式処理システムの導入は終わっている。テンソルくりこみ群シミュレーション用の計算機環境はある程度整備されたが、計算機の性能向上にともない、小規模のアップデートを行っていく予定である。また、研究結果を取りまとめるために、神戸大学の西野准教授、および理化学研究所の上田研究員との打合せを定期的に行う必要があり、本科研費の旅費を充てる予定である。本年度はStatphys25のような大規模な統計力学の国際会議が予定されており、そのサテライトミーティングもある。研究の最終年度であり、本科研費でこれらの国際会議に参加し、得られた研究成果を積極的に公表していく予定である。
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Research Products
(6 results)