2011 Fiscal Year Research-status Report
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23540443
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
大野 義章 新潟大学, 自然科学系, 教授 (40221832)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 鉄系超伝導体 / 反強磁性 / 軌道秩序 / 構造相転移 / 軌道揺らぎ / d-p模型 / 乱雑位相近似 / 動的平均場理論 |
Research Abstract |
鉄系超伝導体の第一原理バンド計算を良く再現する2次元16バンドd-p模型に基づき、電子間クーロン相互作用と電子フォノン相互作用の効果を、まず乱雑位相近似(RPA)の範囲で調べた。特に、orthorhombic歪みと軌道揺らぎの結合効果により、強的軌道秩序がtetra-ortho構造転移を伴って実現し、その転移温度Tsが反強磁性転移温度TNより高くなることを示した。これにより、鉄系超伝導体の実験の相図と、最近の超音波実験で観測された弾性定数C66モードの巨大なソフト化を再現すると共に、このとき実現する超伝導は軌道揺らぎを媒介とするs++波超伝導であることを明らかにした。また、RPAでは考慮されない軌道揺らぎのモード間結合効果をSCR理論および自己無撞着揺らぎ理論(SCF)により調べ、超音波実験による弾性定数C66の温度依存性を広い温度領域で良く再現する結果を得た。 次に、RPAやSCFなどの摂動的手法では十分に考慮されない局所電子相関効果を、動的平均場理論(DMFT)を用いて調べた。その結果、第一原理計算に比べてバンド幅が1/2から1/3に繰り込まれるARPESの実験結果を再現すると共に、RPAでは過大評価されていたストライプ型反強磁性に対して強軌道秩序が相対的により安定化されることを明らかにした。これにより、現実的な相互作用パラメータに対して、鉄系超伝導体の実験の相図(Ts>TN )が再現されることが分かった。さらに、RPAでは構造相転移の近傍でのみ強的軌道揺らぎによってs++波超伝導が実現するのに対して、DMFTでは電子相関効果と軌道-格子結合の協力効果によって増強された局所軌道揺らぎによって構造相転移から離れた領域でもs++波超伝導が実現することを明らかにした。これは、構造相転移から離れたオーバードープ領域まで高い超伝導転移温度が実現する実験とコンシステントである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電子間相互作用と電子格子相互作用が共に重要な役割を果たす多軌道・多バンド格子模型に対して、局所相関と空間相関を共に十分に考慮できる量子多体計算手法を開発するという研究目的を達成するため、自己無撞着揺らぎ理論(SCF)および動的平均場理論(DMFT)の2つの相補的な計算手法の開発を行った。この開発した手法を16バンドd-pホルスタイン模型および2軌道ハバード-ホルスタイン模型に対して適用することにより、軌道揺らぎを媒介とする新規超伝導機構の可能性を検証するという当初の研究目的を達成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
鉄系超伝導体を記述する多軌道・多バンド格子模型では、磁気秩序と軌道秩序、および軌道秩序に誘起される構造転移が拮抗しているため、局所相関と空間相関を共に十分に考慮できる量子多体計算手法が必要不可欠である。このため、前年度に16バンドd-pホルスタイン模型および2軌道ハバード-ホルスタイン模型に対して開発した局所相関効果を正確に考慮できる動的平均場理論(DMFT)を拡張し、さらに空間相関を表す非局所自己エネルギーΣkを補正するDMFT+Σk法を開発する。開発した手法を16バンドd-pホルスタイン模型および2軌道ハバード-ホルスタイン模型に対して適用することにより、反強磁性と構造転移の相図を求め、超伝導転移温度Tcの物質依存性や圧力、ドーピング依存性を説明する。さらに、構築された手法を、High-Tc物質探索の指針となる物質設計へと応用する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度未使用額は1,456円と少額であるので、次年度の使用計画には影響はない。当初の計画通り、国際会議および日本物理学会における研究成果発表の旅費、および、演算サーバー使用料と数値計算データ整理のための謝金として使用する。
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Research Products
(27 results)