2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23540448
|
Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
阿部 純義 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70184215)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 量子熱力学 |
Research Abstract |
当該年度では、研究課題について主に二つの問題に取り組んだ。研究の目的である量子熱力学に対するオペレーショナルな方法の展開として、unitalな正値演算子値測度の構成とこの演算によって生成される熱力学的過程を吟味することであるが、この目的は成功裏に達成された。構成された完全正値写像によって生成される熱力学的過程において、Clausius不等式が破れうることを見出した。この結果が、対象系と環境系との間の量子エンタングルメントの存在と密接に関係していることが分かった。この成果は論文にまとめらており、International Journal of Modern Physics B誌から近々出版される予定である。もう一つの目的は、絶対温度ゼロでの純粋状態量子力学と熱力学との類似性を追求することであった。これに関しては、二つの成果が得られた。第一は、Bender-Brody-Meisterによって議論された井戸型ポテンシャルを用いた量子力学的Carnotサイクルを有限時間熱力学の形式に拡張して最大出力の条件を課すことにより、効率に対する普遍的な値を導出することに成功した。この成果は、Physical Review E誌に出版された。第二の点は、量子力学的Carnotサイクルを一般的なポテンシャルの場合へ究極的に拡張することが出来たことである。このサイクルの効率に関する表式を導出することが出来た。この結果も既に論文にまとめられており、目下査読審査中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
unitalな正値演算子値測度の構成の成功と、この演算によって生成される熱力学的過程においてClausius不等式が破れうることを見出せた点は、重要である。また、井戸型ポテンシャルを用いた温度ゼロでの量子力学的Carnotサイクルに対して最大出力の条件を課すことにより、効率に対する普遍的な値を導出することに成功出来た点は、既に他の研究者の注意を引いている。更に、量子力学的Carnotサイクルを一般的なポテンシャルの場合に拡張することが出来たことは、理論物理学に限らず、ナノサイエンスに対する意義ももつ。
|
Strategy for Future Research Activity |
量子力学的領域において、エンタングルメントの存在により熱力学第2法則が破れる可能性があるという発見は、古典情報熱力学に対するインパクトをもつ。例えば、メモリ消去に関するLandauerの定理は、熱力学第2法則を用いて証明されるが、この問題を量子力学的に考えるは、「Landauerの下限」に対する修正を与える可能性がある。今後の研究方向として、この問題に取り組みたい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題に関連した最近出版された専門書を速やかに入手する。また、2012年8月にロシアで開催される国際会議に招待講演者として呼ばれているので、それに出席して最近の研究成果を報告する。
|
Research Products
(6 results)