2011 Fiscal Year Research-status Report
量子モンテカルロ-フラグメント分子軌道法による水の第一原理シミュレーション
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23540451
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
田中 成典 神戸大学, システム情報学研究科, 教授 (10379480)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 水 / 電子状態 / 核量子効果 / フラグメント分子軌道法 / 量子モンテカルロ法 / 経路積分法 / 第一原理計算 |
Research Abstract |
量子モンテカルロ法とフラグメント分子軌道法を組み合わせた水の第一原理シミュレーション手法の開発を目指している。本年度は経路積分法により、原子核の量子効果と電子状態を同時に考慮できるシミュレーション手法を開発した。従来の研究では、電子状態は平均場近似のHartree-Fock(HF)法で計算していた。しかし、HF法は分子間の弱い分散力が記述できないことが知られている。Born-Oppenheimer近似に基づいた経路積分法では、核量子化によって取り入れられるゼロ点エネルギーはポテンシャル曲面によって完全に決まるため、できる限り電子状態を高精度に評価するほうが望ましい。そのため、電子相関を考慮できるMoeller-Plessetの2次摂動(MP2)法や3次摂動(MP3)法を電子状態計算に用い、手法の高精度化を目指した。原子核に働く力をMP2やMP3レベルで計算するには時間がかかるため、力を計算せずにシミュレーションが行える経路積分量子モンテカルロ法を採用した。開発した手法を水3量体に適用し、水素結合距離の計算を行ったところ、HFレベルでは過大評価されていた水素結合距離が、電子相関の考慮により大幅に改善されることがわかった。また、得られた結果から水3量体の基底状態での水素結合距離を見積もったところ、MP3法による見積もりが実験で推定されているものとよく一致することを見出した。Post-MP2レベルのポテンシャルで経路積分法の計算結果を報告したのは本研究が初めてであり、高次相関の寄与を調べた数少ない例である。また、水分子の電子状態を変分量子モンテカルロ法によって計算するプログラムの開発も並行して進めており、電子相関を記述するJastrow因子に含まれる変分パラメターならびにSlater行列式によるMulti-Configuration展開係数を決定する計算ルーチンを実装した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
水の第一原理シミュレーションを実行するために、(1)水分子の正確な電子状態計算、(2)原子核の量子効果の考慮、(3)水分子間の多体効果の考慮、等が必要である。(1)は通常の分子軌道法ならびに変分量子モンテカルロ法、(2)は経路積分量子モンテカルロ法、(3)はフラグメント分子軌道法による取り扱いを考えている。本年度は、(1)の変分量子モンテカルロ法、ならびに(2)の経路積分量子モンテカルロ法の手法開発とプログラム実装に関して進展があった。
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Strategy for Future Research Activity |
量子モンテカルロ計算ルーチンの並列化と高速化が次年度以降の重要な課題である。H23年度に導入したPCクラスタ計算機での効率的な計算を実現するとともに、地球シミュレータや「京」などの超並列スーパーコンピュータ上での実行も視野に入れてプログラム開発を行っていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の量子モンテカルロ計算ルーチンの並列化と高速化のために、H23年度からH24年度への研究費繰り越し分を用いて、外部ソフトウェア業者への業務発注等の可能性も考えている。また、共同研究先のカナダ・ブロック大学との研究打ち合わせも計画している。
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