2012 Fiscal Year Research-status Report
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23540463
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村尾 美緒 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30322671)
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Keywords | 分散型量子情報処理 / 量子計算 / 量子通信 / エンタングルメント / ネットワーク符号化 |
Research Abstract |
本研究は、情報処理の非局所性、複雑性、因果関係、並列性の4つの観点から分散型量子情報処理の特徴付けを行うことにより、量子計算ネットワーク符号化のための基礎理論の構築を目指すものである。 平成24年度は、各ノード間の古典通信は自由に許す一方で、量子通信は通信路の容量によって制約を受けるという設定での量子計算ネットワーク符号化の解析を行った。そして、量子バタフライ通信路においては、2つの非局所パラメータを含むマッチゲート演算のクラスまで量子計算ネットワーク符号化が可能であることを証明した。また、梯子型ネットワークにおいては、実装できる2量子ビット演算の非局所パラメータ数と梯子の架橋数との関係の解明に成功した。 一方、分散型量子情報処理の並列性と複雑性という観点からは、互いに交換し並列性の高いユニタリ演算子の積から作られる、位相ランダムユニタリ集合と位相ランダム状態の解析を行った。そして、位相ランダムユニタリ集合を量子計算機によって効率良く生成する方法を導くとともに、位相ランダム状態が非常に大きなエンタングルメントを生成しうることを発見した。また、分散型量子情報処理における非局所性と因果性の役割を明確にするために、量子力学よりも強い非局所的相関を示す一般的な確率モデルにおける一般化された相互情報量を定義し、より強い非局所性を示すモデルにおいても、因果性が保たれる範囲内では非局所性を利用して古典通信量を増大させることはできないことを示した。さらに、測定ベース量子計算のエンタングルメント資源であるグラフ状態のエンタングルメントは、対応するグラフの最大独立集合のサイズによって評価ができることを示すとともに、相転移を示すハミルトニアンの熱平衡状態を測定ベース量子計算のエンタングルメント資源として用いることで、有限温度においても測定ベース量子計算の実装が可能となることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
情報処理の非局所性、複雑性、因果関係、並列性の4つの観点から分散型量子情報処理の特徴付けを行うという方向性により、量子計算ネットワーク符号化のための基礎理論の構築を目指すという取り組みによって、量子バタフライ通信路および梯子型ネットワークにおける量子計算のネットワーク符号化に関して、当初計画に基づいた興味深い結果を得たとともに、次に挙げるような、新たな研究成果を得たことにより、当初の計画以上に進展していると考える。(1) 位相ランダム状態に対して、量子系の非局所的複雑性の指標の一つであるエンタングルメントの性質を解明することにより、位相ランダム状態はランダム状態よりも高いエンタングルメントを持ちうることが判明した。これは、並列性の高い交換可能な量子ゲート列をエンタングルしていない重ね合わせ状態に作用させることによって、エンタングルメントの意味で非局所的複雑性の高い状態を作りうることを示唆する。(2)位相ランダムユニタリの効率的生成方法によって、従来知られていた方法より簡単なランダム状態生成アルゴリズムを発明した。(3)分散型量子情報処理の一つのモデルである、測定ベース量子計算の非局所的資源であるグラフ状態のグラフ理論に基づいた多体エンタングルメント測度の導出方法を導いた。(4)有限温度における測定ベース量子計算の資源となるようなエンタングル状態を生成する、量子相転移を示すハミルトニアンを発見し、エラー訂正なしでも有限温度において測定ベース量子計算が可能となることを示した。(5)相互情報量を操作論的な意味を持つ形で一般的な確率モデルへ拡張して定義することによって、量子力学を記述する非局所性と一般化された相互情報量が満たすべき性質との関係を明らかにし、量子力学より強い非局所性を持つ確率モデルであっても、非局所性を古典通信量の増大には使えないことを示した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、量子バタフライ通信路を含むより一般的な2入力・2出力の量子ネットワークに対して、各ノード間の古典通信は自由に許すという設定のもとで、非局所的パラメータの数で決まるいずれの2量子ビットユニタリ演算が実装可能であるかを解析し、量子計算ネットワーク符号化の観点による2入力・2出力の量子ネットワークの特徴付けを行う。 2量子ビットユニタリ演算の実装不可能性の解析に関しては、完全正値写像の中でも分離可能演算クラスに注目して証明を行う。一方、実装可能性の解析に関しては、測定ベース量子計算を用いた実装プロトコルや局所演算および古典通信(LOCC)クラスの演算にエンタングルメント資源に加える実装プロトコルを探索する。また、分離可能演算クラスとLOCCクラスとの間にギャップがある場合には、分離可能演算クラスの演算をLOCCクラスの演算で実装するために追加で必要なエンタングルメント資源の量を解明することによって、分離可能演算クラスの非局所性を定量的に解析する。さらに、測定ベース量子計算を用いた実装プロトコルを因果的な情報の流れであるgflowを用いて解析することによって、量子計算ネットワーク符号化における因果性、並列性と非局所性の解析を進め、より一般的な量子計算ネットワーク符号化を導くための基盤的な理論を構成する。 また、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の尾張正樹博士と加藤豪博士との協力により、ネットワーク上でのアイソメトリー演算の実装例でもある量子最適クローン状態を用いたマルチキャスト量子ネットワーク符号化理論に向けた基礎的な枠組みを構築する。加えて、漸近論的な意味での2量子ビットユニタリ演算の量子ネットワーク符号化の可能性を探索し、single shotで決定論的な計算の実装可能性に加えて、近似的・漸近的な状況下でより効率的に分散型量子情報処理を行う方法を探索する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
量子バタフライ通信路での操作と測定ベース量子計算を対応づけについては、測定ベース量子計算の専門家であるEdinburgh大学のElham Kashefi博士、University College London のJanet Anders 博士、Heriot-Watt University のErika Anderson 博士、CNRSのDamian Markham博士など、量子非調和性などの研究についてはOxford大学のVlatko Veddral教授など、非局所性などの研究についてはWien大学のCaslav Brukner教授などと研究交流を行なうことで効果的に研究を進める予定である。このため、研究費は主に旅費として用いる予定である。 物品費については、新しい備品の購入は不要であり、プリンタートナーやプリンター用紙等のなどの消耗品のみを計上する。また、研究補助者1名を雇用することによって、より効率的に研究を進める。
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Research Products
(7 results)