2011 Fiscal Year Research-status Report
光格子中に2種類の冷却フェルミ原子が共存する系における量子多体効果
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23540467
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
菅 誠一郎 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (40206389)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 冷却フェルミ原子 / 光格子 / 3成分内部自由度 / 斥力誘起s波超流動 / 相分離状態 / 有限温度相図 |
Research Abstract |
今年度は、光格子中において3成分内部自由度を持ち斥力相互作用をする冷却フェルミ原子の絶対零度から有限温度に亘る状態を系統的に調べた。この系は質量が等しい3種類のフェルミ原子の混合系とみなすことができる。3種類の原子間斥力が異なる場合、ハーフフィリングの基底状態は「カラー原子密度波」である事を我々は既に示した。ハーフフィリングからフィリングをシフトすると、どのような状態が現れるかは興味深い問題である。今回我々は、ソルバーにダイヤグラム展開を用いた動的平均場理論、および自己エネルギー汎関数法を用いて、この問題を系統的に調べた。その結果、斥力が強くなるとハーフフィリング近傍において、フェルミ流体から超流動へと連続転移する事を明らかにした。この超流動では最も弱い斥力を持つ2種類の原子がクーパーペアを作り、残りの種類の原子はフェルミ流体になっている。すなわち、引力系でのカラー超流動に類似の性質を持つ。この超流動はクーパーペアに係わらない原子の密度揺らぎにより誘起される。この斥力に起因した特徴的超流動状態は、温度-フィリング相図においてペアモット絶縁体に隣接しているにもかかわらず、クーパーペアの対称性はs波という著しい特徴を持つ。次に、ペア原子とペアを作らない原子に相分離した状態と超流動との競合について調べた結果、超流動状態は弱相関領域のフェルミ流体と強相関領域の相分離状態の間に安定に存在する事を明らかにした。そして、フィリング、斥力の比と強さを変えて、これら3状態の有限温度相図を求めた。得られた相図に基づき、この超流動状態の観測可能性を議論した結果、6Li3成分斥力フェルミ原子系は良い候補系である事を示した。さらに、計算した1粒子スペクトル、および2重占有率は観測可能である事を指摘した。以上の結果は冷却原子の実験家、及び相関電子系の超伝導の研究者にインパクトを与えると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初、質量の異なる2種類のフェルミ原子の混合系の性質を調べる研究を行なっていた。ところが、斥力相互作用をする3成分フェルミ原子において斥力誘起超流動の可能性を見出したので、結果のインパクトを考えてこちらの研究を優先した。複数の非摂動論的方法で調べた結果、ハーフフィリング近傍で確かに超流動が現れ、それは相分離に対しても安定である事を示した。また、この超流動はモット絶縁体近傍に存在するにもかかわらず、クーパーペアの対称性はs波という著しい特徴を持つ。さらに、フィリング、斥力の比および強さに関する有限温度の相図を求め、この超流動は6Li原子系で観測可能である事を示した。この斥力誘起超流動は従来の物性物理では知られていない新奇な性質を持つ事から、得られる結果は冷却原子の研究者だけではなく、相関電子系の超伝導の研究者にもインパクトを与えると考えられる。結果は論文にまとめ、Phys. Rev. Lett.に投稿した。現在、レフェリーコメントに回答して論文を修正し、再投稿したところである。 以上より、今年度得られた研究成果は(1)に該当すると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
次の研究を計画している。 [1] 実験との対応を具体的に考え、今年度の研究をさらに発展させる。まず、光格子中の3成分フェルミ原子における斥力誘起超流動に対する閉じ込めポテンシャルの影響、および3体ロスに起因した相分離の影響について調べる。そして、斥力誘起超流動が安定に現れるための温度や様々なパラメータの条件を明らかにする。前者を調べるためには、実空間での計算を行なわなければならない。そこで、実空間が取り扱えるよう自己エネルギー汎関数法を拡張する。これはチャレンジングな課題であるが、これまでの経験から可能と考えている。[2] 斥力の比を変えながらハーフフィリングでの有限温度相図を求める。そして、基底状態のカラ-原子密度波が温度増加に伴い、フェルミ流体、カラー選択型モット転移状態、ペアモット絶縁体へと相転移する様子を調べる。そしてフィリングをずらした場合に、これらの状態がどのように超流動に繋がるかを明らかにし、超流動を誘起する揺らぎについて、今年度とは別の観点から調べる。この計算には、連続時間モンテカルロ法をソルバーとした動的平均場理論を用いる。 以上の[1]、[2]の研究で得られる結果を実験グループにアピールして、実験による研究の進展を促したい。そして、我々の研究が実験グループとの共同研究に繋がるよう努力する。[3] 光格子中に質量の異なる2種類のフェルミ原子が混合した系についても並行して調べる。この系では原子の種類に依存してモット転移が独立に起こると考えられる。一方の種類の原子がモット転移を起こし、他方の種類の原子が系を遍歴する場合、そこでは非フェルミ流体的な振る舞いが期待されることから、この問題を中心に計算を進める。この計算にも、連続時間モンテカルロ法をソルバーとした動的平均場理論を用いる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
9, 11で書いたように、今年度は計画を変更した。新たな研究課題は既存の設備で計算が可能だった事と、何より計算と論文作成を急いだため、予定していた予算に残額が生じた。 次年度は「今後の研究の推進方策」に従って研究を進める。 光格子中の3成分内部自由度を持つフェルミ原子系において、斥力誘起s波超流動が現われるという興味深い結果が得られたので、様々な理論家や実験グループと議論をして研究を発展させる。特に実験家にアピールして、実験で検証してもらうよう努力する。そのため、国内外の研究会や国際会議に積極的に出席して、研究成果をアピールする。また、上記[1], [2]のテーマを進めるためには、定式化や数値計算を行なう上での技術的な問題や、計算結果とその解釈などを専門家と議論する必要がある。次年度はこのように積極的に行動して、研究を進展させる。 以上より、国内旅費、外国旅費を計上する。必然的に出張が多くなるため、移動中もデータ整理や小規模な数値計算ができるように、クロック周波数が高いノートパソコンを購入するための経費を計上する。
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Research Products
(6 results)