2012 Fiscal Year Research-status Report
光格子中に2種類の冷却フェルミ原子が共存する系における量子多体効果
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23540467
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
菅 誠一郎 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40206389)
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Keywords | 冷却フェルミ原子 / 光格子 / 3種類のフェルミ原子の混合系 / 斥力誘起s波超流動 / 有限温度相図 |
Research Abstract |
前年度に引き続き、今年度は、光格子中に質量の等しい3種類のフェルミ原子が存在する系の超流動を調べた。この系は、3成分内部自由度を持つ光格子中の冷却フェルミ原子系とみなすことができる。これまでの研究で、異なるカラーの原子間に作用する3種類の斥力のうち、2種類が他より著しく強い場合、ハーフフィリング近傍に超流動が現れる事を示した。今年度は、1)この超流動の安定性、2)クーパーペアの対称性について調べた。 1) 強相関領域では、2種類のカラーによるペア原子と他のカラーの原子とに相分離する可能性が考えられる。ここで、ペア原子相では超流動は現れない。拡張反復摂動展開をソルバーとする動的平均場理論により、超流動がこの相分離に対して安定かどうかを調べた。前年度より計算精度を上げ、より低温まで調べた結果、相分離が起こる強相関領域とフェルミ流体が現れる弱相関領域の間に、超流動相が現れる事を確認した。さらに、自己エネルギー汎関数法で3重占有率を調べた結果、超流動相のパラメータ領域では3重占有率が著しく抑制されることを明らかにした。このことは、3体ロスが抑制されることを示唆する。以上より、光格子中に質量の等しい3種類のフェルミ原子が存在する系の超流動状態は、相分離・3対ロスに対して安定であることが明らかになった。 2)1粒子励起スペクトル、および他のダイナミクスの解析から、この超流動のペア対称性はs波と考えられる。ペア対称性が等方的s波か、拡張s波かをエリアシュベルク方程式を用いて調べている。今年度は、この超流動に本質的寄与をすると考えられるRPA型ダイヤグラム、およびラダー型ダイヤグラムを無限次まで取り入れた有効相互作用の導出に成功し、それを用いてエリアシュベルク方程式を書き下した。これに対する数値的は現在実行中である。予備的な結果を2013年物理学会年次大会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は、質量の異なる2種類のフェルミ原子の混合系の性質を調べていた。ところが研究を行っているうちに、光格子中に質量の等しい3種類のフェルミ原子系が混合した系において、斥力相互作用系でありながら超流動が現れる可能性を見出した。そこで、結果のインパクトを考えて、後者の研究を優先した。 動的平均場理論、および自己エネルギー汎関数法という2種類の非摂動論的手法で調べた結果、斥力異方性が強い系のハーフフィリング近傍において、確かに超流動状態が現れる事を明らかにした。この超流動は、相分離、3体ロスに対しても安定である。また、この超流動は相図上でハーフフィリングのモット絶縁体に隣接して現れるにもかかわらず、ペア対称性はs波と言う著しい特徴を持つ。計算結果を実験系と対応させて解析した結果、この超流動は、3種類の原子スピン状態を持つ6Li原子が混合した系を光格子中に置くことで観測可能であることを指摘した。 「研究実績の概要」で説明したように、この系は光格子中の3成分内部自由度を持つ斥力フェルミ粒子系とみなすことが出来る。そのような系におけるs波超流動・s波超伝導は、我々が知る限りこれまでの物性物理では知られていない。そのため、得られる結果は冷却原子の研究者だけではなく、分野を横断して物性物理などの研究者にもインパクトを与えると考えられる。事実、ここまでの結果をまとめた論文はPhysical Review Lettersに掲載された。 以上より、現在までの達成度は(1)に該当すると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である次年度は、光格子中に質量の等しい3種類のフェルミ原子が混合した斥力系における超流動の研究をさらに発展させ、3年間の研究を総括する。具体的な研究内容は以下の通りである。 1)この超流動は、ハーフフィリングのモット絶縁体に隣接して現れるにもかかわらず、ペア対称性はs波と考えられる。ペア対称性が等方的s波か拡張s波かを調べるため、この系の超流動に本質的寄与をすると考えられるRPA型ダイヤグラム、およびラダー型ダイヤグラムを無限次まで取り入れた有効相互作用を導出し、それを用いたエリアシュベルク方程式を書き下した。まず、弱結合でのエリアシュベルク方程式を数値的に解くことで、ペア対称性に関する定性的知見を得る。 2)この超流動は、異なるカラー間に作用する3種類の斥力のうち、2種類が他の斥力より著しく強いパラメータ領域で現れる。そこで、斥力異方性を別の極端なパラメータ領域に変化させて、新たに超流動が現れるパラメータ領域を探す。超流動が現れたら、そこでのペア対称性を1)と同様の方法で調べる。 3)計算を強結合に拡張して1), 2)の研究を行い、超流動転移とペア対称性に関して定量的にも精度良い結果を得る。この計算で得られる結果は、今年度までの計算結果と相補的である。この数値計算は現行の計算機の性能で有効な時間内に精度良い結果が出るかどうかチャレンジングな計算になる。 これまでの研究結果に1)-3)の研究結果を加えて、積極的に国際会議、学会、研究会で発表する。特に実験家にアピールして、実験による研究の進展を促したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は「今後の研究の推進方策」に従って研究を進めるとともに、"斥力相互作用をする冷却フェルミ原子系でモット絶縁相に隣接するにも拘らずs波超流動が現れる"という研究成果を、国際会議・研究会などで積極的に発表していく。特に、研究の興味・方向性を共有する海外の(競争相手の)理論家や、冷却原子での量子多体効果を研究している実験家が参加する国際会議を狙って参加し、互いの研究成果を議論したり我々の研究成果をアピールしたいと考えている。「今後の研究の推進方策」の3)で書いた強結合での数値計算を遂行するには、プログラミングコードを書く上での技術的な問題や、計算結果の解釈などを専門家と議論する必要がある。これまでに引き続き、次年度もこのように積極的に行動することで研究を進展させる。 以上の研究計画を実現するために、研究費を国内旅費、外国旅費、国際会議参加費に使用する計画である。また、移動中もコード開発・小規模な数値計算・データ整理が出来るように、クロック周波数が高いノートパソコンを購入する事を計画している。
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Research Products
(8 results)