2011 Fiscal Year Research-status Report
カーボンナノチューブを用いた生体分子認識能解析の試み:RecAをモデル分子として
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23540479
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
梅村 和夫 東京理科大学, 理学部, 准教授 (60281664)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 生体分子認識 / 原子間力顕微鏡 / カーボンナノチューブ / DNA / 蛋白質 |
Research Abstract |
本研究はカーボンナノチューブ(CNT)に生体分子が吸着する現象に着目し、CNTを担体として用いることで生体分子の分子認識能を精査するものである。計画初年度である平成23年度は、カーボンナノチューブおよび生体分子をさまざまな条件で反応させ、その相互作用を調べる実験を主に行なった。その結果、DNAとCNTの吸着について当初想定していたよりも複雑な挙動が見られ、いくつかの重要な知見が得られた。一方、CNT、DNA、DNA結合蛋白質の混合系については慎重な解釈が必要であることも分かってきた。初年度の研究から明らかになったのは次の3点が主な内容である。(1) DNAとCNTの複合体において、複合体表面の形状はDNAの種類(二本鎖、一本鎖)によらないこと、すなわちCNTの種類で決まることが分かった。二本鎖については配列や鎖長が一定でないものを用いたにもかかわらず、配列・鎖長が一定の一本鎖DNAの場合と表面形状は同等だった。(2) 表面をポリエチレングリコールで修飾したCNTを用いた場合、いったん吸着した二本鎖DNAが、加熱すると脱着することが分かった。この現象は通常のCNTではみられなかった。可逆に吸脱着できれば分子認識研究のツールとしては使いやすくなると考えられる。また、一度吸着させたDNAを脱着できれば、DNA-CNT複合体のバイオデバイスにも応用しやすくなると考えられる。(3) 生体分子-CNT複合体の液中原子間力顕微鏡(AFM)観察に成功した。観察した画像の断面解析から、CNTに付着した生体分子が液中では膨らんでいることが明らかになった。生体分子-CNT複合体の液中観察はこれまでに報告例がなく、CNTに付着した生体分子が立体構造を保っていることに期待を抱かせる結果である。また、計画当初不安視していた実験の再現性については、十分得られている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験は再現性よく行うことが出来ており、生体分子、特にDNAとCNTの相互作用について、重要な知見が複数得られている。事前に不安視していた実験の再現性が十分得られており、概ね順調に進んでいる。材料科学の視点からのCNT研究は多くあるが、生体分子研究の視点からのアプローチは少ないため、貴重な情報が得られていると考えている。一方、DNAとCNTの相互作用が予想以上に複雑であることから、蛋白質を吸着させる実験については慎重に解釈する必要があることが分かってきた。解釈が複雑になる大きな原因は、CNTの構造・物性が均一でないことに起因している。この問題を回避して、複雑な混合系における生体分子認識について逐次結論を導くことが次年度以降の主要な課題となる。また、得られた結果について既に複数回の学会発表を行なっており、論文も2編を投稿中、1編を準備中である。発表情報については、インターネット上のウェブサイトでも適宜報告している。
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Strategy for Future Research Activity |
計画2年目は初年度に得られた知見をもとに、蛋白質の分子認識に関わる知見について、明確な結論を導きたい。そのためにはDNAとCNTの相互作用についてはできるだけ単純にする実験系を構築するのが良いと考える。具体的には、DNAについては比較的容易に構造制御できるので、CNTの制御が重要である。といっても、CNTの構造制御へと本研究を進展させるのは研究目的を逸脱する方向性であり、それに多くの労力を割くべきではないと考える。これまでの知見から、通常のCNTを用いる場合は超音波による前処理が必須で、この操作はCNTを切断するなど試料を不均一にする傾向があるのに対し、表面化学修飾したCNTの場合は超音波処理がそれほど必要でなく、特に生体分子と混合したのちに超音波処理する必要のない実験系が組めることが分かってきた。そこで今後の実験では、表面化学修飾したCNTを用いた実験を中心に行いることで、より解釈のしやすい実験を行う予定である。また、初年度にも学会発表を行なったが、次年度は論文発表、学会発表をより増やし、研究成果の公開を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
装置の導入は初年度に完了しており、次年度は試薬等の消耗品の購入経費、論文発表等に関わる経費、研究補助の雇用経費を予定している。これは申請時の予定通りである。ただし、初年度にも研究補助を雇用する予定であったが適切な人材が見つからなかった。研究補助の雇用は適切な人材でないと効果が薄いため慎重に行う予定である。
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Research Products
(5 results)