2011 Fiscal Year Research-status Report
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23540480
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
藤森 裕基 日本大学, 文理学部, 准教授 (80297762)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 水 / 熱測定 / シリカゲル / 高圧 / 相転移 |
Research Abstract |
化学物理の分野で現在注目を集めている問題の一つに「液体-液体相転移」がある。液体-液体相転移はこれまでヘリウムの超流動が知られているが、近年、リンや亜リン酸トリフェニルにおいて液体-液体相転移が存在する可能性が指摘されている。 「水」は生命を維持する上で欠かすことの出来ない物質の一つである。地球表面はその3分の2は水で覆われており、人体の60%は水で出来ているといわれ、細胞を形成する上で重要な役割を果たしているのも水である。水分子自身は非常に単純な構造ではあるが、その物性は非常に奇妙であり、古くから科学的研究対象となってきた。例えば、4 ℃で水の密度が最大になることは、既に300年前から知られていたが、現在でも充分に理解されていない問題の一つである。三島らは計算機シミュレーションにより水で液体-液体相転移が存在する可能性を見出した [O. Mishima and H. E. Stanley、 Nature、 396、 329-335 (1998)]。しかしながら液体-液体相転移が存在すると推測される温度・圧力領域では、水は全て結晶化してしまうため、水における液体-液体相転移は未だ実験的には見出されていない。 そこで、本研究では、水における液体-液体相転移の観測およびナノ空間内に閉じこめられた水や高圧下におかれた水など、極限状態における水の物性を明らかにすることを目的とし、熱力学的な手法、および分光学的な手法を用いて研究を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
水を細孔径をコントロールしたシリカゲルに充填しDSC測定を行った結果、細孔径の逆数に依存して水の融点が低下することが見出された。一次元の細孔の場合、細孔径2.2 nmと1.4 nmの試料では細孔内部の水の融解に関する顕著な熱異常は観測されず、水が過冷却して110 K付近まで結晶化していないと考えられる。またシリカゲル表面を有機物で修飾した試料を作成し同様の実験を行ったところ、水の凝固点降下度はシリカゲルの表面形状に依存せず、その細孔径のみに依存することが見出された。さらに水の融点を低下させるために、水に不純物としてNaClを混合し、DSC測定を行った。その結果、NaCl水溶液中の水の融解(凝固)、共融混合物の融解(凝固)、およびガラス転移が観測された。NaCl水溶液中の水の融解は、バルクおよび細孔径の大きな試料で観測された。同じ細孔径の場合、水の融点は、NaClの添加量に比例して低下することが見出された。共融混合物の融解はバルクと細孔径の大きなシリカゲルで観測されたが、細孔径が3.1 nm以下では共融混合物の融解が観測されず、代わりにガラス転移が見出された。このガラス転移は、サンプル中で結晶化しなかった液体成分の凍結に起因するものと考えられる。以上の結果、水に不純物を添加し、さらに細孔内に閉じ込めることにより、水の融点が大きく低下することが見出され、低温域でも結晶化しない水の存在が示された。しかし細孔内に閉じこめられた水をバルクの水と同等と見なして良いかという問題に関しては今後議論をする必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで実験は全て大気圧下において行ってきた。しかしながら、水における液体-液体相転移は高圧下に存在すると予測されているため、高圧下の実験を行わない限りは、液体-液体相転移に関する研究を行うことはできない。相転移の観測に最も有用な測定手段の一つが熱測定であること、および微少な熱異常を観測する必要があることを考えると、水における液体-液体相転移の研究には高圧下で測定可能な示差熱測定法(DTA)が最も適していると考えられる。そこで700 MPaまで測定可能かつ室温以下の低温域で測定可能な高圧DTAを開発する。高圧下における熱測定装置を開発した経験のあるパリ南大学のAlba-Simionesco教授と元東京工芸大学教授の前田洋治氏に助言をいただきながら開発を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度未使用の研究費が694,955円あった。これは高圧DTA装置を製作するための研究を進めていたところ,やはり細かい仕様等について専門家に助言をいただくことが必要になった。そこで,元東京工芸大学教授の前田洋治氏に相談したところ,次年度であれば時間を作って協力できるとの返事をいただいた。そのため本年度の研究費を残し,次年度前田先生やAlba-Simionesco教授に高圧DTA装置の製作に関する専門的助言をいただいた際の謝金等のために,人件費・謝金を用いる。 物品費は主に高圧DTAの開発に関する部品の購入に用いる。同時に大気圧下におけるDSCや分光学的実験等も進めるため、その測定用冷媒の購入等にも用いる。旅費は国際会議や国内会議での研究発表の際の旅費として用いる。
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Research Products
(4 results)