2011 Fiscal Year Research-status Report
ミクロな分子とマクロな固体での反磁性超電流の関連性の解明と室温超伝導実現への応用
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23540482
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Research Institution | Nagasaki Institute of Applied Science |
Principal Investigator |
加藤 貴 長崎総合科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10399214)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 電子-フォノン相互作用 / 分子性超伝導 / 反磁性環電流 / マクロサイズ / ミクロサイズ / 静電引力 / 電子対生成 / オームの法則に従わない電圧-電流特性 |
Research Abstract |
本研究課題の「研究の目的」である「特異な電流-電圧特性の考察」、「電子-フォノン相互作用の研究」、「ミクロサイズ反磁性環電流発現機構の解明」等の研究を行った。1. TTF-TCNQ分子性結晶固体におけるオームの法則に従わない電流-電圧特性の原因について新たな理論を提唱した。我々は、精密な理論考察、計算によって、J. Bardeenの理論の矛盾を指摘し、むしろ、各ユニット内に局在化した反磁性超電流が隣接ユニット間でトンネル効果を起こすためにこのような現象が生じると提唱した。さらに TTF-TCNQ分子性結晶固体など、分数電荷を持つインコメンシュレート系において、正確に電子-フォノン相互作用を見積もる計算方法を世界で初めて開発した。我々の計算結果はPauli susceptibility等から得られる実験結果と非常に良い一致を示し、計算方法の妥当性を示した。2. 最近、発見されたピセン超伝導体の電子構造等の解説を行なった。また最近、超伝導性が発見されたpiceneアニオンの電子-フォノン相互作用結合定数を見積もり、超伝導性の考察をした。piceneアニオンの超伝導性は電子-フォノン相互作用で説明できることを示した。3. 電子-フォノン相互作用の強さが、ドープ量とどのように関係しているかを考察した。閉殻電子系から、0.71~0.86の分数電荷だけドープされた分子性結晶固体において、電子-フォノン相互作用が非常に強くなる事を示した。4. BCS理論では説明できない、シクロブタジエンジアニオン、シクロペンタジエンモノアニオン、中性ベンゼンの分子内反磁性環状超電流発現機構を説明できる(BCS理論より普遍的な)新理論を構築した。その中で、フォトンとフォノンの役割について説明した。フォノンがエネルギーギャップ形成に重要な役割をし、フォトンが電子間引力に重要な働きをすることを提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の「研究の目的」である「特異な電流-電圧特性の考察」、「分子性超伝導性における電子-フォノン相互作用の研究」、「ミクロサイズの分子の反磁性環電流発現機構の解明」等、どれも従来の理論より合理的に現象を理解できる画期的な理論構築をしたと思っているが、特に他者からの評価も高い研究内容が以下の2つのテーマがあり、初年度しては、大変進展度が高いと自己評価している。1. 「研究実績の概要1」で示した研究に関連して、 我々が発表した論文の図が、Synth. Met.の同巻号に発表された世界中の42編の論文の中から、表紙を飾る図に選出された。2. 「研究実績の概要2」で示した研究に関連して、研究成果をPhys. Rev. Lett.に発表したが、その研究内容が高く評価され、 日本経済新聞 2011年11月7日 朝刊の11頁に「液体窒素で超伝導に: 長崎総合科学大 有機物、計算で導く」という見出しで研究内容が紹介された。なお、本論文は出版後、半年の段階で、本誌のインパクトファクター(約7)を既に大きく上回っている。また、本研究代表者は2002年にpiceneアニオンの超伝導発現可能性を理論的に説明し、J. Chem. Phys. に発表していたが、2010年に岡山大学の久保園芳博教授らが、実際にpiceneアニオンが超伝導性を示すことを実験的に発見し、natureに報告された。これを機に、岡山大学と共同研究を行ない、その研究成果をPhys. Rev. Lett.に発表したが、その結果、本研究代表者の2002年のJ. Chem. Phys. の論文が世界中に広く認知されるようになり、ここ半年間で、非常に高い被引用回数となった。なお、そのうちの2編はnatureの論文に最後のまとめとして長い文章で引用されていて、我々の研究が、高温超伝導実現に大きな指針を与える事が示されている。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、本研究課題の「研究の目的」である「特異な電流-電圧特性の考察」、「高温超伝導実現を目指した分子性超伝導性における電子-フォノン相互作用の研究」、「ミクロサイズの分子の反磁性環電流発現機構の解明」、「ミクロサイズとマクロサイズにおける超電流の統一的解釈」という全てのテーマについて徹底考察していく。特に以下のレベルまで達成していきたい。1. 「現在までの達成度」の「理由2」で示したように、昨年度の「高温超伝導実現を目指した分子性超伝導性における電子-フォノン相互作用の研究」に関しては発表論文(Phys. Rev. Lett.)の被引用回数が高く、そのうちの2編はnatureの論文に最後のまとめとして長い文章で引用されていて、我々の研究が、高温超伝導実現に大きな指針を与える事が示されている反面、一部新たな検討課題も指摘された。それは主に電子-フォノン相互作用のみならず、それ以外のファクターがどのように超伝導転移温度決定に関わってくるか詳細に研究をすることの重要性の指摘である。このことを踏まえ、今後、詳細に検討し、実験研究者らとの結束をさらに深め、高温超伝導を実現していく。2. 前年度の研究成果3で「閉殻電子系から、0.71~0.86の分数電荷だけドープされた分子性結晶固体において、電子-フォノン相互作用が非常に強くなる事を示した。」という研究を行ない、2011年に、J. Phys. Chem. Cで発表した。その後、最近、natureでdibenzopentaceneという分子性結晶固体が3.17から3.45程度という、分数電荷の電子を一分子当たりに注入すると、電子を3という整数電荷を注入した場合より超伝導転移温度が高くなるという報告があった。今年度は昨年度の研究の成果を、この超伝導性発現の解明のために適用し、新たなる、高温超伝導発現のための設計指針を提案する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
分数電荷を持つ、インコメンシュレート系における電子-フォノン相互作用等を考察し、特異な電子(電気伝導性、新規超伝導性)・光物性について議論する。まず小さな分子サイズレベルから考察し、より大きなモデルに近付けるように試みるが、共同研究者の実験の進捗状況や要請により、その都度それに見合ったモデルの計算を行なう。様々なサイズ、構造を持つ物質において量子化学計算を行ない特異な物性を主に電子-フォノン相互作用の解析から考察する。本研究ではできるだけ多くの種類の物質について考察する。特に本年度は昨年度、新たに開発した分数電荷を持つ分子系における電子-フォノン相互作用の性質を見積もる計算プログラム(FCMOVC法)をさらに改良した優れたプログラムを開発し、分数電荷を持つ、インコメンシュレート系における諸物性を考察する。また、これまで我々が独自に開発してきたプログラムであり計算精度が非常に良いことが実験的にも証明されているMOVC法を用い、大きなサイズの系においては今後開発する、電子相関効果を十分に考慮した計算手法を用いて物性を考察する。この研究を遂行するための計算に要する、計算機、新たなパソコン、ソフトウェアーの購入を行なう。また、前年度に引き続き、画期的な研究を遂行していくために、国内外の実験研究者との研究打ち合わせ、共同研究は不可欠である。特に理論研究者にとって、実験の情報と、他者とのディスカッションによって得られるアイデアは、最も重要であるといっても過言ではない。さらに、前年同様、研究成果を十分に世界中に知らせるために、学会での発表等を重視する。そのためにも、相応の出張旅費が不可欠である。その他、論文作成に必要経費となりうる、謝金、その他の項目の経費も適宜、必要に応じて柔軟に活用していく。
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Research Products
(13 results)