2012 Fiscal Year Research-status Report
ミクロな分子とマクロな固体での反磁性超電流の関連性の解明と室温超伝導実現への応用
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23540482
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Research Institution | Nagasaki Institute of Applied Science |
Principal Investigator |
加藤 貴 長崎総合科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10399214)
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Keywords | 電子-フォノン相互作用 / 分子性超伝導 / 分数電荷 / 場の量子化 / 外部磁場 / 外部電場 / 電気抵抗 / 電子対生成 |
Research Abstract |
本研究課題の「研究の目的」である、「電子-フォノン相互作用の基礎研究」、「電子-フォノン相互作用の超伝導への応用研究」等を行った。 1. 今年度に海外のグループによってnature scientific reportsで発表された超伝導物質、dibenzopentaceneの電子-フォノン相互作用と超伝導性発現に関する理論的研究を行った。芳香族炭化水素における高温超伝導性の設計指針は、2002年に我々のグループによって提案されているが、nature scientific reportsではそのことを引用して、高温超伝導設計指針を提案している。これに対し、我々は、注入電荷と電子-フォノン相互作用の強さとの関連性を考察することにより、2002年の指針より詳細な高温超伝導設計指針を提案した。具体的には、閉殻電子構造に対し、注入電荷が分数(0.5~0.9)程度で、フェルミレベルにおける状態密度が非常に高くなり、それにより電子-フォノン相互作用が非常に強くなり、高温での超伝導性発現に繋がることを示した。 2. 最近、超伝導性が発見されたピセン、フェナントレンアニオンの電子-フォノン相互作用結合定数を見積もり、超伝導性の考察をした。ピセン、フェナントレンアニオンの超伝導性は電子-フォノン相互作用で説明できることを示した。 3. 電子-フォノン相互作用を場の量子論でどのように記述できるかを定式化した。そのことにより、1次課程の電子-フォノン相互作用では電気抵抗の原因になるが2次課程の電子-フォノン相互作用では電子対生成に繋がりうることを新たな数式を誘導して説明した。 4. 外部磁場や、外部電場の強さによって、電子-フォノン相互作用の強さがどのように変化していき、1次課程と2次課程の電子-フォノン相互作用の役割の割合がどのように変化していくか、数式を誘導して示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、どれも従来の理論より合理的に現象を理解できる画期的な理論構築をしたと思っているが、特に他者からの評価も高い研究内容に関して以下の2つのテーマがある。 1. 「研究実績の概要1」で示した研究に関連して、我々の研究成果はJ. Phys. Chem. Cで間もなく発表予定である。picene、phenanthrene、dibenzopentacene、coronene等の芳香族炭化水素における高温超伝導性の設計指針は、2002年に我々のグループによって提案されているが、その内容が、今年度、海外のグループによってnature scientific reportsで発表された論文中で高温超伝導設計指針の議論のため長文で引用された。一方で、我々は、2002年の我々の高温超伝導設計指針とnature scientific reportsで発表された高温超伝導設計指針を統一的に解釈できるより普遍的な高温超伝導設計指針を確立した。 2. 「研究実績の概要2」で示した研究内容は、2002年に我々のグループが超伝導発現予測をした物質、picene、phenanthreneに関する高温超伝導設計指針に関するものである。2011年から2012年にかけて実際にpicene、phenanthreneの超伝導性が実現されたが、それ以降、我々の研究内容が日本経済新聞に4回にも亘って記事として紹介され、また海外のグループが発表したnature communicationsの論文で我々の研究が引用され大きく取り上げられている。一方で、我々は、新聞の記事に取り上げられた新たなる課題を解決する新たな理論を確立し、2002年の我々の高温超伝導設計指針とnature scientific reportsで発表された高温超伝導設計指針を統一的に解釈できるより普遍的な高温超伝導設計指針を確立することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、本研究課題の「研究の目的」である「高温超伝導実現を目指した分子性超伝導性における電子-フォノン相互作用の研究」、「ミクロサイズの分子の反磁性環電流発現機構の解明」、「ミクロサイズとマクロサイズにおける超電流の統一的解釈」という全てのテーマについて徹底考察していく。特に以下のレベルまで達成していきたい。 1. 「現在までの達成度」で示したように、昨年度、一昨年度の「高温超伝導実現を目指した分子性超伝導性における電子-フォノン相互作用の研究」に関しては2002年(J. Chem. Phys.)、2011年(Phys. Rev. Lett.)の発表論文の被引用回数が高く、そのうちの2編はnatureの論文に最後のまとめとして長い文章で引用されていて、我々の研究が、高温超伝導実現に大きな指針を与える事が示されている反面、一部新たな検討課題も指摘された。それに対し、我々は今年度、新たなる統一的な解釈が出来る理論を確立したが、さらにそれが定着するように現在の研究課題を徹底的に追及していく。特に実験研究者らとの結束をさらに深め、高温超伝導を実現していく。 2. 前年度の研究成果3、4で「電子-フォノン相互作用を場の量子論でどのように記述できるかを定式化した」、さらには「外部磁場や、外部電場の強さと、電子-フォノン相互作用の強さの関係性の解明」という抽象度の高い基礎研究を行なったがこの研究成果をもとに、実際に、高温超伝導実現に結びつける応用研究を行う。そのために我々が考察した理論研究が、従来の超伝導理論とどのような関連性があるのかを徹底的に調べ、より普遍的な超伝導理論を確立することを目標に研究を行っていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
整数電荷のみならず分数電荷を持つ系における、電子-フォノン相互作用、クーロン擬ポテンシャル等を考察し、特異な電子物性について議論する。小さな分子サイズレベルからより大きなモデルに近付けるように試みるが、共同研究者の実験の進捗状況や要請により、その都度見合ったモデルの計算を行なう。様々なサイズ、構造を持つ物質において量子計算を行ない特異な物性を主に電子-フォノン相互作用、クーロン擬ポテンシャル等の解析から考察する。本研究ではできるだけ多くの種類の物質について考察する。特に本年度は昨年度、一昨年度、新たに開発した分数電荷を持つ分子系における電子-フォノン相互作用の性質を見積もる計算プログラム(FCMOVC法)をさらに改良した優れたプログラムを開発する。また、これまで我々が独自に開発してきたプログラムであり計算精度が非常に良いことが実験的にも証明されているMOVC法を用い、大きなサイズの系においては今後開発する、電子相関効果を十分に考慮した計算手法を用いて物性を考察する。一方で、今年度は、見積もりが大変困難とされていたクーロン擬ポテンシャルを性格に見積もる計算プログラムも開発する。この研究を遂行するための計算に要する、計算機、新たなパソコン、ソフトウェアーの購入を行なう。 また、画期的な研究を遂行していくために、国内外の実験研究者との研究打ち合わせ、共同研究は不可欠である。特に理論研究者にとって、実験の情報と、他者とのディスカッションによって得られるアイデアは、最も重要であるといっても過言ではない。さらに、最終年度ということで、研究成果を十分に世界中に知らせるために、学会での発表等を重視する。そのためにも、相応の出張旅費が不可欠である。 その他、最終年度のため、論文作成に必要経費となりうる、謝金、その他の項目の経費も適宜、必要に応じて柔軟に活用していく。
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Research Products
(10 results)