2013 Fiscal Year Research-status Report
南海トラフ巨大地震の予測高度化を目指した紀伊半島下の3次元地震波速度構造の推定
Project/Area Number |
23540496
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
澁谷 拓郎 京都大学, 防災研究所, 教授 (70187417)
|
Keywords | 南海トラフ巨大地震 / 紀伊半島 / 地震波速度構造 / フィリピン海プレート / スラブ起源流体 / レシーバ関数 / トモグラフィ |
Research Abstract |
本研究は、南海トラフ巨大地震の発生や強震動の予測を高度化するために、巨大地震の震源域であり、破壊開始点であり、強い地震波の経路である紀伊半島の3 次元地震波速度構造を正確に推定することを目的としている。 具体的には、我々が独自に紀伊半島に展開したリニアアレイ観測のデータを解析して、地震波速度不連続面の3 次元形状を推定し、それらを地震波走時トモグラフィの速度構造モデルに組み込み、さらに、定常観測点に加えて、リニアアレイを構成する臨時観測点の読み取り値も使用して、紀伊半島下の深さ60 kmまでの3次元地震波速度構造を推定した。 沈み込むスラブが深さ30~40 kmに達するあたりで深部低周波イベントが発生しているが、この発生域周辺は、P波速度(Vp)もS波速度(Vs)も低速度異常を示し、それらの比Vp/Vsは1.8程度と比較的大きな値を取る。これらは深部低周波イベント発生域周辺に流体が存在することを示唆する。 紀伊半島北西部の下部地殻に中心をもつ非常に強い低速度異常域では、VpもVsも10 %以上の速度低下を示していることからこの低速度異常の成因も流体と考えられる。この低速度域の直上にあたる和歌山県北部の上部地殻内では地震活動が非常に活発であることが知られている。この地域では、下部地殻の低速度域から上昇してくる流体により地震が発生しやすくなっていることが示唆される。 これらは、海洋地殻の含水鉱物が深部低周波イベント発生域付近で脱水分解して、その結果放出された「水」がマントルウェッジや下部地殻に移動して、低速度域を作り出し、地震発生に関与していることを示している。とても意義のある結果が得られたといえる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
地震波形の読み取りに精通している読み取り要員を雇用し、2010年~2011年のうちの19か月分の読み取りが完了した。 新たに読み取った走時データを追加するとともに、解析範囲や用いる地震についても再検討を行った。また、S波走時データに対しても解析を行い、S波速度(Vs)の3次元構造とVp/Vsの3次元分布を推定した。 これらをもとに「研究実績の概要」で述べたような意義のある成果を出すことができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
推定された3次元地震波速度構造に基づいて、紀伊半島下に沈み込むフィリピン海プレートの境界面付近の物性や状態について議論する。また、プレートから放出された流体の挙動と紀伊半島での地震活動について議論する。これらの議論を論文にまとめて投稿する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度に、地震波走時の読み取り結果を用いてトモグラフィ解析を行い、その結果を論文にまとめる予定であったが、十分な読み取りデータが得られてから最終的な解析を行ったので、論文を投稿するまでには至らず、次年度使用額が生じた。 トモグラフィ解析結果を論文にまとめて投稿する際の英文校閲費や投稿料として使用する。
|