2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23540501
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
渡部 潤一 国立天文台, 天文情報センター, 教授 (50201190)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柳澤 正久 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (60134665)
伊藤 孝士 国立天文台, 天文データセンター, 助教 (40280565)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 木星 / 天体衝突 |
Research Abstract |
2010年6月と8月に複数のアマチュア天文家によって観測・報告された木星面での発光現象は、大きさ数m~数十mの小天体の衝突による発光と考えられる。この種の衝突発光は予想外に頻発している可能性が高い。日本の熟練したアマチュア天文家の協力を得て、木星面あるいは土星面を継続的に監視観測するネットワークを構築すると同時に、大型望遠鏡でさらに小規模な現象を捉え、衝突発光の頻度と規模を調査することで、木星や土星を天然の小天体検出器として活用し、今まで不定性が大きかった巨大惑星領域での小天体について数mサイズまでサイズ分布を決定することが目的である。 初年度は、1.アマチュア天文家の間でよく用いられているシステムによって、広く誰でも観測に参加できる監視観測用システムの構築については CCDビデオカメラの導入と小望遠鏡による観測システムの構築が完成した。2.衝突発光の検出を阻害している木星面輝度のコントラスト向上のための、メタンバンド(吸収帯が890nm付近)による試験的観測については、木星の観測適期を逃したため、適切な大型望遠鏡の使用するには至っていない。3.監視観測で発生する大量のデータのハンドリング処理の方法の検討、特に衝突発光が検出されたときだけのデータをリアルタイムに取り出し、保存するソフトの開発については、衝突発光を検出した後、トリガーをかけて自動的にデータを保存するソフトウェアを開発し、国立天文台三鷹の50cm望遠鏡での観測に実装した。4. アマチュア天文家のネットワークの構築については、すでに全国の興味のあるアマチュア天文家のネットワーク構築に成功し、すでに来シーズンの観測に向けてMLを立ち上げている。これらの成果は、各種学会などで中間報告をしている最中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、木星面での数m~数十mの小天体の衝突による発光現象について、日本の熟練したアマチュア天文家の協力を得ながら、木星面あるいは土星面を継続的に監視観測するネットワークを構築すること、および大型望遠鏡でさらに小規模な現象を捉え、衝突発光の頻度と規模を調査することにより、最終的には木星や土星を天然の小天体検出器として活用し、今まで不定性が大きかった巨大惑星領域での小天体について数mサイズまでサイズ分布を決定することを目的としている。 初年度については、アマチュア天文家の間でもよく用いられる観測機材によって、広く誰でも観測できる監視観測用システムを構築し、衝突発光の検出を阻害している木星面輝度のコントラスト向上のためのメタンバンド(吸収帯が890nm付近)による試験的観測を行い、また監視観測で発生する大量のデータのハンドリング処理の方法の検討、特に衝突発光が検出されたときだけのデータをリアルタイムに取り出し、保存するソフトを開発し、アマチュア天文家のネットワークの構築中を4項目を当初の実施目標に掲げた。 これらについて、CCDビデオカメラの導入と小望遠鏡による観測システムの構築が完成した。衝突発光を検出した後、トリガーをかけて自動的にデータを保存するソフトウェアを開発し、国立天文台三鷹の50cm望遠鏡での観測に実装済みである。また、すでに全国の興味のあるアマチュア天文家のネットワーク構築に成功し、来シーズンの観測に向けてMLを立ち上げることに成功した。これらの成果は、各種学会などで中間報告をしている最中である。ただ木星の観測適期を逃したため、適切な大型望遠鏡の使用するには至っていないが、次年度には実現できる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
研究手法の項目(1)システム構築、(2)大型望遠鏡によるメタンバンドでの観測、(3)検出ソフト開発とデータハンドリングの検討については、(2)をのぞいて終了している。今後は、(4)観測ネットワークの構築と、観測結果の検討を行い、随時観測システムの改良にフィードバックをかける予定である。 特に(2)については、石垣島天文台の活用を検討中である。木星が観測好機になるのは、年度でも後半10月以降となり、秋から冬にかけての観測を検討している。(4)については、参加する層の拡大をはかる予定である。アマチュア天文家の中には、惑星面の変化に興味を持ち、その変化を日夜追いかける方々だけでなく、木星や土星の映像や画像を観賞用に撮影している方々もいる。(1)(2)で構築したシステムをそのまま適用できるようなレベルではないが、こうした映像は光学系が適切で有れば、監視観測データとして活用が可能である。広く参加を呼びかけることで、有効な監視時間を延ばしていく予定である。 もうひとつ、比重を置きたいのは(5)観測データ解析によるサイズ分布の導出である。当初は上限値しか得られない可能性も高いし、発光強度と小天体の大きさの関係についても理論的な議論が必要である。観測された衝突の規模と頻度から、小天体のサイズ分布について、天体力学の立場から解析を行う予定であり、その方向での検討も進めていく予定である。サイズ分布が得られれば、そこから巨大惑星領域の衛星の表面のクレーターカウントの謎、つまり各惑星の衛星のクレーターが示す矛盾に対する回答が得られる可能性がある。最終的にはクレーター年代学という惑星地質を研究する上での大きな問題に一定の指針を与えることを目指している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に関しては、(1)観測システムの構築、および(3)検出ソフト開発については、ほぼ終了したため、(2)石垣島天文台などの中口径以上の天体望遠鏡によるメタンバンドフィルターによる高コントラスト試験観測にかかる消耗品、データ処理、および旅費、(4)観測ネットワーク構築にかかる検討会への旅費、および(5)観測結果の検討会の、学会などへの参加旅費などを中心に研究費を充てる予定である。 (2)については、謝金によりデータのハンドリングおよびデータ保管、ネットワークを通じて寄せられる質問や観測結果のとりまとめを、スキルのある人材に依頼する謝金として支出していく。さらに(4)については、参加する層の拡大をはかるため、アマチュア天文家を中心として、検討会や意義を知ってもらうための学習会を開催する場合の旅費に充てる。観測の重要性を知ってもらった上で、観測に参加する層を増やすことが本研究の成否を分けるといっても過言ではない。データ提供を促すためのキャンペーンを行うことで、広い層にアピールしていきたい。木星面の監視は、天体望遠鏡と撮影システムが必須なので、それほどの多数の参加は見込めないものの、惑星を観賞用に撮影しているアマチュア天文家が相当数存在することを考えれば、価値は十分にある。 同時に(5)の観測データ検討会を開催していくための旅費および途中経過の発表にかかわる旅費にも充当してていきたい。
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