2011 Fiscal Year Research-status Report
地球観測衛星分光データを用いた地球進化過程における天体衝突現象の解明に関する研究
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23540502
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Research Institution | National Institute for Environmental Studies |
Principal Investigator |
山本 聡 独立行政法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, 特別研究員 (20396857)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 地球観測 / 惑星起源・進化 / 惑星探査 |
Research Abstract |
23年度では、月における衝突クレーター周辺のスペクトル特性の検証を行った。月周回衛星かぐや搭載のスペクトルプロファイラで取得された反射分光データを用いて、月にある南極エイトケン盆地内の、月主要鉱物の特定スペクトル(カンラン石1.05μm、斜長石1.25μm、斜方輝石0.9μm吸収バンドに着目)を持つ領域の分布を調べた。その結果、月のマントルおよび下部地殻起源と考えられるカンラン石が露出する場所は、直径100km以上の衝突クレーターに付随しており、それらの中の中央丘やピークリングと呼ばれるクレーター形成時に深部から上昇してきた山脈領域にのみ分布することを見つけた。またクレーター内壁やクレーター縁から周辺ではカンラン石は全く見つからないが、クレーターの底にある最近形成されたと考えられる小さな衝突クレーターにおいて、斜方輝石を示すスペクトルが見つかった。これらより、巨大衝突によって地殻とマントルの大規模溶融が起こり、その後の分化作用により斜方輝石とカンラン石の層が形成された可能性が高いことを突き止めた。 また、月の地殻起源と考えられる純粋な斜長石の分布を明らかにするために、1.25μmの吸収バンドを持つスペクトルの分布について調べた。その結果、純粋な斜長石はいずれも直径100km以上の衝突クレーターに付随し、それより小さいクレーターでは見つからないことが分かった。このことから、月表層10kmの浅部では純粋な斜長石はほとんど存在しないが、ある程度大きな衝突クレーターの形成により深部から掘り起こされることで、衝突クレーターに付随する純粋な斜長石の分布が形成されることを突き止めた。 以上のことから、月面上の衝突クレーターにおいては中央丘やピークリングと呼ばれる場所で主に特定鉱物のスペクトルを示すこと、またそのクレーターの底では衝突溶融起源鉱物が分布することを突き止めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
地球では地質活動や風化侵食作用が激しく、また大気や水・植生の影響により、衝突クレーターとスペクトル特性の関係が複雑である可能性が高いと考えられてきた。その為、23年度では、大気・水、植生の影響がない月の衝突クレーターの解析を行ったところ、特定スペクトルを示す場所はいずれも衝突クレーターの特有の構造(衝突掘削後の重力作用により生じる中央丘やピークリング)に見つかることを突き止めた。これは、衝突クレーター形成に基づく特徴であるため、地球においても同様の特徴を示すことが予想される。その為、地球上の他の地質構造(火山性クレーターや岩塩ドームによる円形構造)と区分する上で、非常に重要な制約条件を与える。 また、表層10kmの浅部では他の鉱物の混合が起こるため、通常では純粋な斜長石だけを観測することは難しいが、ある程度大きな衝突クレーターの形成により深部に存在する斜長石が表層に暴露されることで、衛星から斜長石のスペクトルが観測されることが分かった。このことは、地球衝突クレーターに対するスペクトル解析を行う上でも、表層からある程度深部にある鉱物や地層の物質に着目すればよいということを意味する。その為、地球の衝突クレーター周辺のスペクトル分布の解釈を行う上で、深部から来たと思われる中央丘やピークリングに着目すればよいということが分かった。 以上のことから、次年度以降において地球衝突クレーターに対して解析を集中するべき場所がある程度限定できたと考えられる。また月と同様のスペクトル分布特性を示すことが期待されるため、自動抽出プログラムを開発する上で、比較的単純なアルゴリズムの適用で対応できると考えられる。以上のことから、研究の進捗状況は概ね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
月で得られた結果を踏まえ、地球上における衝突クレーターのスペクトルパターン特性の検証を行う。現在、地球衝突クレーターと認識されているものについて、比較的植生の影響が少ない地域を中心に、ASTERのマルチ分光データを用いて、衝突クレーター近辺の構造(中央丘、ピークリング、内壁、縁部分、放出堆積物領域など)と特定スペクトルパターンの関係について調べる。また、火山性クレーターおよび岩塩ドームによる円形構造との違いを調べるために、火山および岩塩ドームに対するASTERデータによる解析も行う。これらの特徴と衝突クレーターの相違点を明らかにし、月の場合で観測されたような、特定鉱物によるスペクトル特性分布が、地球衝突クレーターの中央丘やピークリングでも観測されるのかを明らかにする。または月との違いがある場合は、何が地球特有の特徴であるのかについて調べる。 さらに地球クレーターに対して行われた過去の地質調査研究による結果と比較を行い、ASTERデータによる結果の解釈を行う。また月の衝突クレーターとの比較検証を行い、地球における衝突クレーターを特徴付ける特定スペクトルパターンを明らかにする。最終的に、月および地球での解析結果をもとにして、クレーター自動抽出プログラムの開発を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
地球では、地域ごとに異なる様々な地質活動の歴史があり、また気候の違いによる植生分布や侵食風化作用の影響の違いがあると考えられる。その為、地球上の衝突クレーターおよび、火山・岩塩ドームにおけるスペクトル特性の解析においては、ASTER衛星画像による解析だけでなく、現地で撮像された写真、地質調査に基づいた文献資料等による地域的特徴に基づいた解釈が欠かせない。そこで、次年度の研究費の使用計画としては、まず個別の衝突クレーターや火山などについての地表面での写真や航空機の画像が記載されている資料、地質調査に基づいた地図などの資料の購入を行う予定である。 また、地球については非常に高い空間分解能で取得された衛星画像が数多く取得されている。月と違い複雑な状況下にある地球上の衝突クレーターの衛星画像解析においては、ASTERのマルチ分光データによる解釈だけでなく、他の衛星画像を積極的に利用することが研究遂行上重要と考えている。この場合、高分解能衛星画像を大量に取得する必要があり、また個別に解析した画像を効率良く保存・管理するためには、大容量のストレージおよびそのバックアップ機能が重要である。そこで、RAID機能を搭載した大容量ストレージの購入を予定している。それにともない、これらのストレージに保存する場合に必要となる画像処理機能を搭載した解析ソフトの購入も予定している。
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[Journal Article] Olivine-rich exposures in the South Pole-Aitken Basin2012
Author(s)
S. Yamamoto, R. Nakamura, T. Matsunaga, Y. Ogawa, Y. Ishihara, T.Morota, N. Hirata, M. Ohtake, T. Hiroi, Y. Yokota, J. Haruyama
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Journal Title
Icarus
Volume: 218
Pages: 331-344
DOI
Peer Reviewed
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